部屋の中では、まだ、にらみ合いが続いていた。 「私には納得できない」 何故、国を第一に考えてはいけないのか。 国があるからこそ、人々は安心して暮らしていられる。そう彼女は主張をした。 「先に、キラを手放したのはオーブだ。それはわかっているのか?」 アスランは即座にこう言い返す。 「傷ついたあいつに手を差し伸べるどころか、逆に追い出すようなことをした。それでも、キラに《オーブのために》と言って協力を求める。それこそ本末転倒だろうが」 あの時、キラがどのような言葉を投げつけられたのか。そして、それによって彼の心がどれだけ切り裂かれたのか。それを知らないくせに、とアスランは言い返す。 「何なら、聞かせてやろうか?」 その時、あいつらがキラに向かっていった言葉を……と微笑みながら付け加える。 「アスラン」 そんな彼の言葉を諫めようとしているのか。ラクスが声をかけてきた。 「どうやら、こいつは他人の気持ちを推し量るという基本的なことを忘れてしまったようなので。その位しないと、キラがどれだけ《オーブ》に傷つけられたのか。こいつは理解できないだろう」 たとえ、キラがこの部屋から自由に出られるようになったとしても、それはプラント内に彼を傷つける人間がいないからだ。 しかし、オーブは違う。 セイランがどうなるかはまだわからないが――と言っても、あの父をはじめとした者達が本気で怒り狂っているのだ。おそらく失脚に等しいのではないか――その手の者達に差から恨みされないとは言い切れないだろう。 何よりも、とアスランはカガリをにらみつける。 「お前が一番信用できない」 カガリの言動がキラを傷つけるのは明白ではないか。 「なら、あいつが受けた傷をきちんと認識して貰った方がいい」 それでもそんな世迷い言を言うのであれば、即座に縁を切らせてもらう。 「お前とキラがどんな関係だろうと、俺たちには関係ない。俺たちが大切なのは、今ここにいる《キラ》本人だから、な」 それ以外のことは些細な問題だ。この言葉に、カガリが初めて驚いたような表情を作る。 「……それに関しては同意しますわ」 さらにラクスも微笑みながら頷いて見せた。 「それでなくても、今のキラは既にプラントにとってなくてはならない存在です」 プラントの機密にも多々関わっている。そんな人間を国外に無条件で出国させられると思っているのか。ラクスがカガリにこう問いかける。 「あいつが他国のことに?」 「キラにとっては、既にプラントが自分の国ですわ」 カガリの言葉をラクスが即座に否定した。 「その認識自体が、既にあなたは間違っています。あの日から、もう三年も経っておりますのよ?」 その時間をなかったことに出来る人間なんていない。その事実を認識できないから、今の自分たちの間にはこんなにも大きな溝があるのではないか。 「……お前達の方が矛盾しているじゃないか!」 まだ三年、とかもう三年とか……と重箱の隅をつつくようなセリフをカガリは口にしてくれる。 「お前にとって、おばさん達の死はそんなに簡単に忘れられるものなのか?」 それと日常生活と同レベルで語っていいのか。アスランは逆に聞き返す。 「……それは……」 「しかも、キラはその場にいたんだぞ?」 キラがその時、どのような状態だったのか。カガリが一番知っているはずではないか。それなのに、そんなセリフを言うのか……と思わず怒鳴りつける。 「だが、キラだって……」 しかし、カガリはどうしても『キラがオーブの人間だった』という過去から思考を話そうとはしない。 いったいどうすればいいのか。 それとも、このまま永遠に平行線なのか。 アスランがそう考えたときだ。 「そこまでにしないか、カガリ」 周囲に静かではあるが威厳に満ちた声が響いた。 「……えっ?」 それに信じられないというようにカガリが視線を向ける。 「何で、ここに……」 そのまま、絞り出すようにこう告げた。 「治療のためだ。それに……セイランがした不始末の尻拭いもしなければなるまい」 それにお前の不始末の尻拭いも含まれるとは思っていなかったが……といいながら、彼はゆっくりと室内に足を進めてくる。 「すまないな、アスラン君」 「いえ……ウズミ様。こちらこそ、申し訳ありません」 言葉を口にしながら、アスランは立ち上がった。 |