ラクスとニコルの間に、ぐったりとした様子のカガリが確認できる。
 それでも、彼女はどこか物珍しいといった表情で室内を見回していた。
 だが、それもアスランの姿を見つけるまでだ。
「何故、護衛の人間を追い出した?」
 お前の指示だと聞いたが、と彼女は言葉を投げつけてくる。そんな些細なことにまで噛みつかなければいけないくらい、二人にいじめられたと言うことだろうか。
「ここはプライベートな空間だ。そんな無粋な存在は必要ない」
 それに、とアスランは静かに言葉を口にする。
「そんなやつがいたら、キラが恐がって出てこないからな」
 もっとも、カガリがそれでいいなら、今からでも呼び戻せばいい。ただし、キラと話をすることは諦めてもらうが。そうもアスランは付け加えた。
「それでは、本末転倒だろうが!」
 案の定と言うべきか。カガリが怒鳴りつけてきた。
「でも、それがカガリさんのご希望だったのではありませんか?」
 護衛の人間を側に置いておくことが、とニコルが口を挟んでくる。
「そうですわね。それがあなたのご希望でしょう? なら、キラが彼らがいるから顔を出せないというのは彼の理由ですわ」
 そして、その二つの条件が相反する内容である以上、どちらかを諦めるしかない。
「わたくしはちゃんと説明したはずですわ。カガリ以外の人間が来れば、絶対にキラは顔を出しませんわよ、って」
 彼にとって、見知らぬ人間は『恐怖』の対象なのだ。まして、カガリの護衛ならば軍人だろう。たとえ自分に危害を与えることはないとわかっていても、その存在だけで恐怖に駆られるだろう。
「それを覚えていらっしゃらないとは……貴方はわたくしの言葉などどうでもいいと思っておいでなのですね」
 それが話し合いに来る人間の態度なのか、とラクスは静かな怒りを滲ませながら聞き返している。
「……帰ってくれないか、カガリ」
 アスランはため息とともに言葉を口にした。
「やはり、今のお前をキラに会わせるわけにはいかない」
 どう考えても、キラに悪影響しか与えないとそうも付け加える。
「アスラン!」
「違うというのか?」
 何度も自分たちはキラの状況を説明してきた。それなのに、今だってキラを傷つけるような行動を取ろうとしただろうが! とアスランは怒鳴り返す。
「……私は……」
「ラクスとニコルには、お前が絶対にキラを傷つけないと約束しないうちは連れてくるな、と言っておいた。その二人がお前を連れてきたと言うことは、お前がその約束を飲んだと言うことだろう?」
 それとも、とアスランはカガリをにらみつける。
「自分の欲求を通すためには嘘を付いても構わない、と言うのか?」
 それがこれからオーブを背負って立つ人間の態度なのか? とアスランはさらに問いかける。
「私は……」
「だとするなら、オーブという国そのものを信頼できない。そう判断されても、お前は構わないんだな?」
 この言葉に、彼女は初めて表情を強ばらせた。どうやら、そんなことになるとは考えてもいなかったらしい。
「ニコル……すまないが、先に部屋に入ってキラをお前の所かイザークの所に連れて行ってくれ」
 その後で、カガリを部屋にあげるから。そう続けた。
「アスラン!」
 当然のようにカガリが抗議の声を上げる。
「そうですね。ここまで来たのに追い返されたと言われるのは困りますから」
 だからといって、キラの前で今のような言動をされても困る。だから、とニコルは頷いて見せた。そして、アスランの脇をすり抜けて奥へと向かっていく。
「私はキラに!」
 その後を追いかけようとカガリが足を踏み出す。
「ダメですわ。許可も得ずにそれ以上進むのは、マナー違反ですわ」
 しかし、その彼女の襟首をラクスが難なく掴む。
 彼女の腕ならば直ぐにはずせると思ったのか。カガリは抵抗を見せる。
 しかし、予想に反してラクスの指はそこから外れない。
「放せ!」
「あらあら。本当にガサツになられましたわね、カガリは」
「そういう問題か!!」
「そういう問題ですわ」
 目の前で繰り広げられているのは漫才なのだろうか。それとも、自分にそう見えているだけなのか。
 どちらにしても、カガリのこの凝り固まった意識をどうやってたたき壊してやるべきか……とアスランは思う。
 キラの気持ちを考えれば、会わせてやりたい。しかし、このままでは彼が傷つけられてしまうことは明白だ。
 ひょっとして、とアスランは首をかしげる。
 この事を予想していたから、彼等はこの場に足を運んでくれたのか。
 だとするなら、何とかなるかもしれない。いや、何とかなって欲しい……と本気で考えていた。


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