誰にも注目されることなく、二人の人物がプラントへと降り立つ。
 そして、彼等はそのまま出迎えの車に乗り込んだ。

「だから、どうしてダメなんだ!」
 カガリがこう怒鳴っている声が廊下まで響いてくる。
「本当に困った方ですこと」
 小さなため息とともにラクスが呟いた。
「あれでは、演技なんてできそうにありませんわ」
 国民の前で演技をしなければ習いことだってある。それが出来なくては、為政者としてはまだまだ半人前、と言うことだ。
「そこがカガリさんらしいと言ってしまえばそれまでですしね」
 あきれているという感情を隠すことなく、ニコルが言葉を綴る。
「まぁ、どうでもいいですけどね。キラさんや僕たちに厄介ごとが降りかかってこなければ」
 彼女をどう成長させるかは、彼女の周囲の人間達が決めることだ。自分たちがそこまで関わる必要はないだろう。
 絶対にキラの前では見せない表情を作りながら、彼はそういいきった。
「そうですわね」
 確かに、彼女自身が自分で成長するという態度を見せないのであれば、周囲の者がそれを促すべきなのだ。
 だが、オーブはそうしていない。
「カガリばかりのせいではないでしょうけど」
 その方が都合がいい者達しか周囲にいなかったのではないか。しかし、とラクスは言葉を重ねる。
「だからといって、その状況に甘んじていることは許されないでしょうね」
 誰も教えないから、と言うことでとんでもない製作を押しつけられたら、困るのは国民の方だ。
「そして、国のために誰かを犠牲にしていいはずがありません」
 首長家に生まれたものであれば、国のために尽くす義務はある。
 それは自分たとも同じだ。しかし、とラクスは続ける。それから逃れる道がないわけではない。
 今の地位にいるのは、自分たちがそれを選択したからではないのか。
 それを守るために、他人を巻き込むのは筋が違う。
「昨日の話し合いで、カガリがそれを理解してくれていればいいのですが……」
 あの様子では無理だろう、と彼女はため息をつく。
「それでも、キラに会わせなければいけないのですね」
 不本意だ、と言外に滲ませながら彼女は言葉を重ねた。
「でも、そうすることで二度とこんな状況はなくなるのではありませんか?」
 ニコルがこう言い返してくる。
「だといいのですが」
「そうですよ。あの方が協力してくださるのですし」
 それに、とニコルは笑みを深めた。
「最終的に許可を出せばいいのでしょう?」
 それまでにねちねちとイヤミを言うのはいいと言われているではないか。彼はさらに付け加えた。
「それはそうですわね」
 他の者達にしても、それがわかっているからこそ、自分たち二人をこちらに寄越したのではないか。でなければ、イザークとディアッカの組み合わせでもよかったはずだ。
「何よりも、時間はたっぷりあります」
 指定された時間までは、とニコルは楽しげに告げる。
「そうですわね」
 それまでじっくりと彼女をいたぶっても誰も何も言わないだろう。
「ゆっくりと話し合いをさせて頂きましょうか」
 言葉とともにラクスはすっと背筋を伸ばす。そして、真っ直ぐにカガリがいる部屋へと歩み寄っていく。
 ニコルもまた、同じように歩いていった。
 二人の存在に気が付いたのだろう。オーブ側の護衛が静かにドアを開けてくれる。
 そんな彼等が、二人の恐怖を実感するのは、それから直ぐのことだった。


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