キラの好みはどちらかと言えば華やかさよりも香りや周囲との調和を優先しているようだ。自分はぱっとした色彩を好むし、ラクスはメインを決めてそれに周囲を合わせる方がいいらしい。
 一件バラバラのようだが、対象が花だけに比較的まとめやすいか……とディアッカは思う。
「とりあえず、勝手に植えるわけにゃいかないから……鉢植えで何種類か購入して、それで並べておけばいいんじゃないか?」
 どうしてもダメならば、それは部屋の中に移動させるか、あるいは誰かの家に押しつけてもいいだろう。鉢植えならば、引き取ってくれる人間がいるだろうから……とディアッカは妥協案とも言えるセリフを口にする。
「そうですわね。いざとなれば、家で引き取りますわ」
 花が増えるのは大歓迎だ、とラクスは微笑む。
「じゃ、メインにバラで、後はかすみ草とか何かか?」
 それとも、他の種類の花がいいのか……と他の二人へと問いかける。
「そうですわね。でも、できればシミュレートしてみたいですわ」
 出来ますか? と彼女はキラに視線を向けた。そうすれば、彼は軽く首をかしげる。だが、直ぐに頷いて見せた。
「了解。なら、やってみるか」
 植物のデーターはネットから取ってくればいいし、中庭の写真が必要なら直ぐに用意できるだろう。そう付け加える。
「となると……キラの部屋でしょうか」
 あそこであれば、必要な機材が揃っているだろう。そういいながら、ラクスはキラへと視線を向けた。任せておいて欲しい、と言うようにキラは小さく頷いてみせる。
「じゃ、移動するか」
 シミュレーションなら、色々と冒険も出来るしな。ディアッカのその言葉に二人は楽しげに頷いて見せた。

 そんなキラ達とは対照的だったのは、もちろん、アスラン達だ。
「……セイランではなく、オーブの首長会が首謀者なのか?」
 だとするなら、本気で厄介だ……とラスティが頭を抱えている。
「だが、ウズミ・ナラ・アスハの署名がある以上、キラがプラント籍だという事実がなかったことにはならないはずだ」
 イザークがこう告げる。
「そうですね。過去に遡って条約を取り消すことは出来ません」
 確かに、キラの個人的な事情かも知れない。だが、国家元首に等しい者達の間で決められたことだ。条約と同じと考えていいはずだ、とニコルも頷く。
「ですが、これでわかりました。ウズミ様がどうしてキラさんに同じ曲を弾かせていたのかが」
 そして、同じ工房で作られたバイオリンが必ずキラの手に渡るように手配していたのかも……と彼は続けた。
「演奏者の癖、と言うのももちろんですが、制作者の癖や工房も環境というのも音に大きく関わってきますから」
 もちろん、同じ人間でも必ずしも同じ演奏が出来るわけではない。だが、演奏の癖は消えるものではないから……とニコルは口にする。
「それなら、それこそ録音でいいじゃないか」
 アスランは思わずこう呟いてしまう。
「俺もそう思う」
 なのに、わざわざキラを連れて行ったのには理由があるのだろうか。それとも、たんに自分がキラの演奏を聴きたかったのか……とイザークが首をひねっている。
「……キラの生体データーも判別に使われているのか?」
 ラスティがふっと呟くよう口にした。
「可能性は否定しないが……だが、それではキラに何かあったときにどうするんだ?」
 新たにマザーのセキュリティを構築するのか。しかし、それでは中に収められているデーターが消去される可能性もあるだろう。
「確実に、何か、それらを回避する方法があるはずなんだが……」
 間違いなく、カガリ達はそれを見つけられないでいる。
 だからこそ、一番確実な方法として、キラを連れ戻そうとしているのではないか。
「だからといって、今のキラはオーブに行くどころか、この部屋から出ることも出来ないだろうが」
 強引に連れ出せば、キラの心がどうなるか。
「演奏すら出来ない状況になったらどうするつもりなんだ?」
 それすらもわからなくなるほど、焦っているのか。だが、国を治めるものとしてhそれはどうなのか、とアスランは言いたい。
「ともかく……母上達に相談だけはしておいた方がいいだろうな」
 カガリだけが暴走しているという可能性もある。
「オーブへのパイプを持っていると言えば、シーゲル様か」
 彼であれば、カガリに気付かれることなく早急にあちらと連絡が取れるだろう。現在、あちらがどのような状況になっているのか。それがわかればこちらも対処のしようがある。
「確かに。それまではあちらのお姫様がキラに会うのを邪魔するしかないか」
 そのあたりのことも、それぞれの保護者に連絡をしておくべきだろう。
「……と言うことで、ラクス達と合流だな」
 タイミングを見て情報の交換と役割分担を決めなければ。アスランはそう付け加える。
「そのあたりは、みんなで協力すれば何とでもなります」
 キラの注意を惹きつけておくことぐらいは誰でも出来るだろう。ニコルは微笑みながらこう告げる。
「そうだな」
 頷きながらも、オーブでいったい何が起こっているのか……とアスランは心の中で呟いていた。


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