一人残された部屋で、カガリは爪を噛んでいた。
「何で……」
 自分があそこまで言われなくてはいけないのか。
「私は、オーブの首長家の一員だ」
 そうである以上、国を優先するのは当然ではないのか……と言葉をはき出す。
「キラだって……」
 確かに、彼自身は《アスハ》の一員ではない。だが、自分と《双子》なのだ。だから、オーブを優先する義務がある。
 ウズミにしてもそう考えていたからこそ、彼にあの役目を与えたのではないか。
「……それなのに、あいつらは……」
 どうして、キラが義務を果たすことを邪魔するのだろうか、と彼女は呟きを漏らす。
「ともかく、キラに会わないと……」
 そして、話をしないといけない。そうすれば、彼だって……と思う。
 しかし、今のままでは自分は彼に会えないだろう、いや、会わせてもらえないというのが正しいのか。
「どうすればいい?」
 自分に向かってこう問いかけた。
 ごまかそうとしても、彼等がごまかされてくれる人間でないことは知っている。それでも、ごまかしきらなければいけないのだ。
「出来るか?」
 自分にそれが、とカガリは呟く。
「いや、やらなければないんだな」
 オーブのために。
 自分にそう言い聞かせる。そして、きつく唇をかみしめた。

 イザーク達が、何故かラスティと一緒に帰ってきた。
「何かあったのか?」
 声を潜めながら、アスランはこう問いかける。
「あぁ」
 真っ先に言葉を返してきたのはラスティだ。
「ただ、キラには内緒にしておきたいんだが……」
 あまり、彼に聞かせたい話ではない……と彼は続ける。
「そうなのか?」
 彼がそういうのであれば嘘ではないのだろう。だが、一応確認のために……とイザーク達へと視線を向ける。
「キラには聞かせない方がいいだろうな」
 それに、とイザークは口を開く。
「お互いの情報をすりあわせておいた方がいいだろうな」
 それに関しては同意だ。
「だが、気付かれるぞ?」
 自分たちだけで話し合っていれば……とアスランは顔をしかめる。だからといって、キラを寝かしつけてから抜け出すことも難しいだろう。
「これをキラに押しつけておけばいいだろうが」
 アスランの言葉に、イザークはディアッカの背中を叩いた。それに彼は咳き込んでいる。
「後はラクスとニコルか……」
 しかし、いい口実があっただろうか……とアスランは首をかしげた。
「中庭の花のこととでも言っておけ」
 お前が明日買いに走ればいいだけのことだ。イザークはディアッカを見つめながらこう告げる。
「母上達が心配をして顔を出すと言っているから。そういえば、キラも納得するだろう」
 そちら方面では、自分やアスランはあてにならない。その言葉は事実だが、胸をはるほどのものだろうか。
 しかし、確かにそれが一番無難だろう。
「任せる」
 だから、とアスランもディアッカへと声をかけた。
「はいはい。その代わり、後でちゃんと説明してくれよ?」
 他の二人にも、と彼は口にする。
「もちろんだ」
 それに関しては、イザークとラスティがしてくれるだろう……とアスランは言う。
「俺?」
 ラスティが驚いたように声を上げる。
「……不本意だが、しかたがあるまい」
 しかし、イザークの方は当然だと思っているようだ。そのあたりが、理解の差なのかもしれない。
「俺たちの方は、母上との調整をしているからでキラは納得するだろう」
「了解」
 しかたがないなと口にしながら、ディアッカは奥へと進んでいく。
「じゃ、行くか」
 自分の部屋でいいだろう。そうイザークは口にする。それにアスランは頷いて見せた。


INDEXNEXT



最遊釈厄伝