アスランが部屋に顔を出した瞬間、キラが飛びついてくる。
「どうしたんだ、キラ」
 ラクスが一緒にいて危険なことなんてあるはずないだろう? と苦笑を浮かべながらも、アスランは彼の体をしっかりと抱き留めた。同時に、ニコルの言葉に従ってよかった、とも思う。
 あるいは、こうなることがわかっていたのだろうか、彼は。
 そう思いながらもアスランはキラの顔をのぞき込む。そんな彼の視線から顔を隠すかのようにキラは彼の胸に顔を埋めた。
「ひょっとして……寂しかったのか?」
 この問いかけに、キラはますますアスランの胸に顔を押しつけてくる。
「悪かった」
 昨日の今日だったのに、とアスランは口にした。
「でも、相手が相手だったからな」
 こちらの状況を的確に説明できる人間が足を運ばないわけにはいかなかったのだ。アスランはそうも続ける。
 この言葉に「わかっている」というようにキラは頷いて見せた。それでも、不安を消せないのだろう。まだ離れる気配がない。
「ずるいですわ」
 その光景を見ていたラクスが、いきなりこう言ってくる。
「ラクス?」
 いったい何が『ずるい』というのだろうか。そう思いながらアスランは彼女へと視線を向けた。
「確かにずるいですね」
 さらに、ニコルもそんな彼女に同意をするように頷いている。
「僕たちには、そんな風に抱きついてくれないじゃないですか」
 さらに彼はこう言ってきた。
「当たり前だろう」
 しかし、アスランにしてみれば、それで『ずるい』と言われても困る。と言うよりも、それが当然ではないかと考えていた。
「これは俺だけの特権だからな」
 アスランはそういいながらキラの体を抱きしめる腕にさらに力をこめる。
「……本当に、ずるいですわ」
 ラクスがまたこう呟く。
「ラクスもニコルも、キラと合奏が出来るんだ。このくらいの特権を俺に残してくれてもいいだろう?」
 キラに抱きついてもらえるという、とアスランはまた言い返す。
「キラを抱きしめるのはお前達だって出来るんだし」
「そういう問題じゃありません!」
 アスランの言葉に、ニコルは叫ぶように言葉を口にした。

 目の前の男の顔に、確かに見覚えがある。
 しかし、どこで見たのだろうか。
「……プラントではないことだけは事実だな」
 そうなれば、やはり《月》にいた頃、と言うことになる。イザークがこう呟いたときだ。
「おじさんの所に来ていた奴じゃないか?」
 ディアッカが確認を求めるようにこう問いかけてきた。
 その言葉に、イザークは改めて記憶の中を探っていく。そうすれば、ハルマに遊んで貰っているときに押しかけてきた人間とよく似ているという結論にたどり着いてしまった。
「……あぁ。これから出かけようと言うときに邪魔してくれた奴か」
 この言葉に、相手が驚いたように目を丸くする。
「何だ? 覚えていないと思っていたのか?」
 確かに、ナチュラルならばそうかもしれない。しかし、コーディネイターの記憶力は彼等の比ではない。そして、自分たちは人の顔を一目で覚えるように訓練されている。
 まして、負の感情と共に覚えていた顔だ。忘れたくても忘れられるもんではない。ただ、いつもは記憶の底に沈ませていただけだ。
「確か、モルゲンレーテの人間、と聞いた記憶があるんだが」
 ディアッカがさらに言葉を口にする。
「おじさんの同僚、と言っていたからそうだろうな」
 あのころのハルマは、モルゲンレーテに属していたから……とイザークは自分の記憶を確認するように呟いた。
「だよな」
 まぁ、ここはモルゲンレーテの施設だし。そういう人間がいてもおかしくはないかもしれないが。ディアッカも頷きながら言葉を口にしていく。
「俺たちの記憶にあるのは、その程度だぞ」
 それ以上はそれこそオーブに確認しろ。イザークはラスティに視線を移した。
「いや、十分だって」
 なら、後はアスランに確認した方がいいだろうな。彼はそう呟く。
「と言うことで、送ってくから」
 ちょっと待っていてくれ。そういって彼は笑う。
「……キラにだけは気付かれるなよ?」
 そんな彼に、イザークはしっかりと釘を刺しておいた。


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