「ふん。神話も役に立つな」 キラの体を腕の中に抱きしめながら、イザークが笑う。 「……天の岩戸、でしたかしら?」 でも、あれで隠れていたのは女神ではありませんでした? と笑いながら問いかけてきたのはラクスだ。 「それを言うなら、岩戸の前で半裸で踊っていたのも女神ですよ」 そちらなら、まだ、観賞に堪えるかもしれないが……とニコルは口を開く。 「ディアッカの半裸は、見たくありません」 きっぱりと言いきった彼に、何と言い返せばいいのか。誰もがすぐに思い浮かばない。ただ、ニコルのこのセリフが本人の耳に届いていなければいい、と願うだけだ。 「や〜っと出てきたな」 その願いが叶えられているのかいないのか。どうやら、一曲踊り終わったらしいディアッカがキラ達の方に歩み寄ってくる。 「しかし、キラに俺の舞をきちんと見てもらえなかったのはつまらないな」 もう一曲踊るか、と彼は呟く。 「あら。その前にわたくしの歌を聴いて頂かなければ」 「そうですよ。僕のピアノだって聞いてもらわないといけません」 即座にラクスとニコルがそれぞれ言葉を綴った。 「……それなら、いっそ、キラもバイオリンで参加すればいい」 アスランが優しい口調でそういってくる。 「別に、俺が作った方のバイオリンでなくていいから」 さらに続けられた言葉に、そういえば、今朝、テーブルの上に置いてあったのだった、とキラは思い出す。 たとえ自分の手元に置いておかなくてもいい。それでも、一度は弾いてやってくれないか……と彼に言われていた。自分のために彼が一からバイオリン作りを身につけたことも知っている。だから、その希望を断れずに、必ず一度は弾くようにしていた。 しかし、今日の分はまだチューニングもしていない。 それに、とキラは心の中で呟く。 今の自分の心情で、満足できる音を出せるだろうか。 そんな不安もあるのだ。 「そうだな。久々に全員揃ったんだ。お前のバイオリンも聞きたい」 しかし、イザークまでこう言いながらキラの顔をのぞき込んでくる。 「ダメか?」 さらにこう付け加えられては頷かないわけにはいかない。 キラは小さく首を縦に振って見せながら、本当に彼等は自分がどうすれば同意をするのかを知っている、とぼやく。しかも、決して無理強いはしてこないのだ。その微妙なラインを知っているのは、きっと、小さな頃から一緒にいたからだろう。 「バイオリンで思い出しました」 言葉とともにニコルが手を叩く。 「後で構いませんから、キラのバイオリンをじっくりと拝見させて頂けませんか?」 もちろん、傷つけません……と彼は付け加える。 それに関しては心配していない。自分も楽器を演奏するからか、ニコルの扱いは丁寧だ。 しかし、その理由がわからない。 どうして、と視線で問いかける。 「メーカーか、作った工房が知りたいな……と思いまして」 バイオリン以外の弦楽器を作っていないかどうか、確認したいのだ。そういって彼は微笑む。 「それを知って、どうするんだ?」 興味津々、と言った様子でディアッカが問いかけた。 「アスランを特訓するんですよ。リズム感は悪くないと思うので、コントラバスぐらいなら弾けるようになるのではないかと」 流石に、チェロやビオラは無理だろうが……とニコルは微笑みながら言い返す。 「……無謀な……」 そう呟いたのはイザークだ。 「かもしれませんけど……キラさんと合奏したいと言われては」 「ニコル!」 慌てた様子で、アスランがニコルの口を塞ぐ。 「あらあら」 それが信憑性を増している、と彼は知っているのだろうか。しかし、アスランに出来るのかどうか、とキラも悩む。 確かに努力家だし、こつこつと何かをするのは好きだとは知っている。しかし、それとこれとは別問題ではないだろうか。 「頑張ってくださいませ、アスラン」 もっとも、その前に楽器を入手しなければいけませんが……とラクスだけが笑いながら口にする。 そう言える彼女は、やはり大物なのかもしれない。誰もが心の中でそう呟いていた。 |