「どうでした?」
 帰ってきた瞬間、ニコルがこう問いかけてくる。
「……あいつは、いつからあんなに話が通じなくなったんだ?」
 それに、アスランはこう言い返す。
「こちらの話を聞かずに、自分たちの主張だけを通そうとしている」
 その様子は、地球連合のバカどもと変わらないのではないか。この言葉とともに彼はため息をはき出した。
「……そんな状況なのですか」
 彼女は、とニコルもため息をつく。
「行方がつかめなかった間に、どんな教育をされてきたのでしょうか」
 メールだけでは気が付かなかった。さらに彼は言葉を重ねる。
「もっとも、メールは他の人間が書いていたとしても、確かめられませんけどね」
 文章だけならば似せることは難しくない。そうも付け加えた。
「そうだな」
 確かに、とアスランも頷いてみせる。
「ただ……俺としてはメールはカガリ本人が書いていた、と思うな」
 少なくとも彼女がキラを心配しているという気持ちは嘘ではないだろう。
 ただ、とアスランは言葉を重ねる。
「あいつの中での優先順位が、キラよりもオーブという国の方が高くなっている」
 国を守るためならば、何をしてもいい。
 そういう考え方をする者達がいることも知っている。しかし、自分たちには決して承伏できない考え方だ。
「何よりも、あいつは今でもキラがオーブの人間だと信じているからな」
 国のために行動するのは当然、と言いたいらしい。
「キラの意志はどうでもいいそうだ」
 そう吐き捨てる。
「カガリさんらしくないセリフですよね、それって」
 ニコルはこう言って顔をしかめた。
「あぁ。だからこそ、キラに会わせるわけにはいかない」
 彼の前でそんなことを口走られたら、本人にとってどれだけ負担になるか。
「そうですね」
 確かに、とニコルも頷いてみせる。
「今日も、僕の部屋にお呼びしたのですが……中庭に出るときもためらっておられましたよ」
 昨日の今日だからしかたがないのだろうが、と彼は続けた。
「そうだな。昨日もなかなか眠れなかったようだし」
 抱きしめていても不安が消えなかったようだ。アスランはそう言い返す。
「……だが、必ず来るだろうな、あいつは」
 ため息とともに彼はそう言葉をはき出した。
「それに関係している、と思えることなのですが」
 曲の話をしていたら、キラが思い出したらしくて……とニコルは言葉を重ねる。
「……聞かせてもらおう」
 ひょっとしたら、解決の糸口が隠されているかもしれない。その気持ちのまま、アスランは彼を見つめる。
「もちろんです」
 そんな彼に向かって、ニコルはしっかりと首を縦に振って見せた。
「でなければ、キラさんの側を離れるはずがないでしょう!」
 せっかく独占できていたのに、と彼は続ける。
「……新しい曲の楽譜を渡したんだろう?」
 なら、練習とかで独占できるだろうが……とアスランは言い返す。
「もちろんです!」
 それだけは何があっても譲らない。ニコルはそういきった。
「もっとも、ラクスさんには譲らないといけないでしょうが……」
 不本意だが、ラクスならしかたがない。そう思えるのは、彼女もまた音楽に突出した才能を持っている存在だから、だろうか。
「……イザーク達も聞きたがるだろうが……とりあえず、先に聞かせてもらうか」
 二人の話をすりあわせておけば、彼等に説明をするときも楽なのではないか。
「そうですね。そうしておけば、色々と推測も出来ます」
 ニコルも彼の言葉に同意をしてくれる。
「でも」
 しかし、直ぐに首をかしげた。
「キラさんに顔を見せなくて大丈夫ですか?」
 不安に思っているのではないか。こう言われては否定できない。
「とりあえず、顔を見せに行った方がいいと思いますよ」
「そうだな」
 どちらを優先するかなど決まり切っている。だから、アスランは即座に部屋の中へと足を向けた。


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