ニコルが作った曲の楽譜を見つめる。
 彼らしい、と言っていいのだろうか。細やかなリズムの変化が心地よいと思える。
「どうですか、キラさん」
 ニコルが感想を求めてきた。それにキラは微笑み返す。
「よかった。気に入って頂けたようですね」
 ほっとしたように彼はこう言い返してくる。しかし、自分の感想でそんな風に喜んでいいのだろうか。そんなことも考えてしまう。
「キラさんが気に入ってくださったなら、ラクスさんも気に入ってくれると言うことです」
 現在のプラントで自分の音を一番よく理解してくれているのがキラとラクスだ。その二人が気に入ってくれるなら、他の人間がどれだけ批判的な評価をしようとも気にならない。
「今回は、かなり実験的な手法を組み入れていますから」
 それをどういわれるか、よくわからないから……と彼は続けた。
 それのどこがいけないのだろう。
 キラはそう考えてまた首をかしげる。
 同じような作品だけを作っていてはいずれあきられるだろう。そうでなくても、曲なんて自分のその時の心情がよく現れるものではないか。
 それに、この曲には確かに新しい手法が使われているかもしれない。
 でも、間違いなく《ニコル》の《音》になっているではないか。
「パターンにはまった曲が好きだ、と言う人たちもいるのですよ」
 特に、評論家と言われている連中には。ニコルは苦笑と共にそう告げる。
 言われてみれば納得かもしれない。
 そういえば……と心の中で呟いた瞬間、キラはあることを思い出した。
「キラさん?」
 自分の表情の変化に気が付いたのだろう。ニコルが「どうかしましたか?」と問いかけてきた。
 それに何と言えばいいのだろうか。
 アスランがいてくれれば、どんな些細なことでも告げられる。そして、彼もそれに付き合ってくれることはわかっていた。
 しかし、ニコルにそれを求めてもいいものだろうか。
「どんなくだらないことと思っていても、それが重要だ、と言う可能性がありますよ?」
 だから教えて欲しい。キラの内心を読み取ったかのように彼はこう口にする。
「時間はありますが、キラさんとそれを合奏するには足りませんから」
 きちんと練習して貰わないと、と彼は続けた。
 それに頷き返すと、キラはハロに手を伸ばす。
 即座にハロは、彼の手の中に転がり込んできた。

「よっ!」
 こう言いながらラスティが歩み寄ってくる。
「……何だ?」
 だが、どうしてここに彼が……とイザークは目をすがめた。
「ちょっと付き合え」
 それに直接言葉を返す代わりに、彼はこう言ってくる。それだけで訳ありだ、とわかっていた。
「イザーク」
「わかっている」
 ディアッカがそっと声をかけてくる。それにイザークは即座に怒鳴り返す。
「……で、どこに行けばいい?」
 ここでは出来ない話なのだろうが、と視線をラスティに向けながら口にした。
「察しが早くて嬉しいよ」
 とりあえず、と口にしながら彼は視線だけで行く先を示す。イザーク達がそれに頷くと、さっさと行動を開始した。
 そのまま、彼が確保していたらしい一室の前まで案内をされる。
 いや、確保していたのは彼ではなくザフトだったのか。部屋の中には他の軍人達の姿も各人出来た。
 しかし、それよりも気になったのは、その中央で拘束されていた男の存在だと言っていい。
 うつむいているせいで、その顔ははっきりとはわからない。
「……誰だ?」
 イザークは思わず問いかけの言葉を口にする。
「一応、ここの責任者」
 ひょっとしたら、二人に見覚えがないかと思って……とラスティは言葉を返してきた。
「何で、そう考えたんだ?」
 ディアッカが不審そうに声をかけている。
「……月時代の、お前らの写真を持っていたから、だよ」
 そのころからキラを見張っていたのではないか。だから、ひょっとしたら二人の記憶に残っているかもしれない。そういってくる。
「キラに聞くわけにはいかねぇし……アスランは掴まらないからな」
 さらに彼は言葉を重ねた。
「……少しでも早い方がいいというのであれば、そうだろうな」
 とりあえず、顔が見たい。そういうイザークにラスティが合図を送る。
 それを受けて、男の傍にいた兵士が彼のあごに手をかけた。


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