「はっきり言うぞ、カガリ」
 彼女の話を聞き終わったところで、アスランはあきれたように口を開く。
「お前達は、キラを《道具》として使っていた。そうとしか俺には思えない」
 そうである以上、絶対にキラに会わせるわけにはいかない、と言い切る。
「アスラン!」
「今のお前達には、キラに関して何の権利もない。あいつは既にプラントの人間だ」
 カガリが何と言おうとも、パトリックとウズミが決めたことを今更覆すことは出来ない。
「お前が何と言おうとも、だ」
 それは彼等の決定に異議を唱えることだろう。アスランはさらにこう続ける。
「……お前は、オーブが滅んでも構わない、と言うんだな?」
 低い声で、カガリがこう言ってきた。
「それは違いますわ」
 ラクスが微笑みながら言葉を口にする。
「わたくしたちの誰も、そう思ってはおりません」
「なら!」
「ただ、オーブのことはオーブで解決をなさってください。そう申し上げているだけです」
 キラに協力を求めるかどうか。それは医師の判断を仰いでからでも遅くはないだろう。
 しかし、とラクスは続ける。
「おそらく、ドクターも『無理だ』とおっしゃいますわ」
 キラにとって、あのマンションから出ると言うことは大変苦痛を伴う行為だ。その結果、ようやく治りかけてきた彼の心が壊れかねない。
「それに、カガリ。一つ答えてくださいませ」
「何だ?」
「国と人。大切なのはどちらですか?」
 この言葉の意味がわからないのだろう。カガリは目を丸くしている。
「答えられませんか?」
 だが、ラクスの方もまた、一歩も引くつもりはないらしい。さらに問いかけの言葉を口にした。
「答えられるに決まっているだろう!」
 それが彼女の反骨精神に火をつけたのか。カガリはラクスをにらみつけるように口にする。
「国があるからこそ、人々はその理念に沿って生きていられる」
 この答えを聞いた瞬間、ラクスだけではなく、アスランも思わずため息をついてしまった。
「違うというのか?」
 自分の答えに文句があるのか、と彼女は噛みついてくる。
「祇園精舎の鐘の声。諸行無常の響きあり。
 沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理を表す。
 でしたかしら……」
 それに、ラクスはさらりと言い返した。
「何が言いたい?」
「国はなくなっても、志を等しくしている人が存在していれば、また新しい国を興すことが可能です」
 実際、そうやってプラントは出来たのだ。
「逆に、人を大切にしない国はいずれ滅びますわ」
 歴史がそれを証明しているのではないか。ラクスのこの言葉に、カガリも反論が出来ないらしい。悔しげに唇を噛んでいる。
「第一、今は《キラ》がいます。しかし、彼の命は永遠ではありませんのよ?」
 その時はどうするつもりだったのか。
「……それは……」
 カガリは言葉を返そうとする。しかし、こうなったときのラクスを止められるはずがない。
「キラはオーブのマザーを守るための鍵ではありません。《キラ・ヤマト》と言う一個人で、わたくしたちにとって何にも替えがたい存在です。その存在を失うようなことをさせようと言うのでしたら、わたくしたちに納得できるような理由を口にしてくださいませ」
 それが出来ないのであれば、他の方法を探せ。きっぱりとそういいきる。
「ウズミ様が計画されたのであれば、絶対に回避策も用意されているはずだ」
 それを探す努力もしないで、安直に《キラ》を壊すようなことをするな! とアスランも口にした。
「そもそも、それにはキラ個人が必要なのか? それとも、キラが奏でる《音》が必要なのか。それすらもわかってないんだろうが」
 それなのに、キラが必要だ、必要だ……とがなり立てるだけしかしない。そんな人間の言葉とキラを拉致しようとしていた者達とは同レベルだろうが、とアスランはさらに言葉を重ねる。
「……私が?」
「違うというのであれば、そう思わせる行動を取ってみせるんだな!」
 アスランはこの言葉と共に立ち上がった。
「アスラン!」
 話はまだ、とカガリが引き留めようとしてくる。
「どこまで行っても平行線だろう? なら、時間の無駄だ」
 自分たちはキラを渡すつもりはないのだから、とアスランは言い返す。
「もう一度、頭を冷やしてから来るんだな」
 そして、こう告げると、そのまま歩き出した。


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