ラクスはそっとキラの前に一通の封筒を差し出した。
 いったい誰からのものか。
 キラは視線だけでそう問いかける。
「……カガリから、ですわ」
 この言葉に、キラの表情が強ばった。
 カガリは、今、ここにはない幼なじみの一人だ。しかし、今は微妙な立場にある。
 自分たちを襲ったのがオーブの軍人だ。カガリの直接の関係者ではない。だが、彼女の婚約者と思われる人間の部下なのだ。
 そのあたりのことを彼女カガリはわかっているのだろうか。
 それ以前に、それが彼女の名前をかたったものではないと言い切れるのか、とキラは不安になる。自分の《叔父》まで詐称するような連中なのだし、と心の中で呟く。
「大丈夫ですわ、キラ」
 それを察したのだろう、ラクスが微笑みながらこういった。
 いったい、どうしてそういいきれるのだろうか。
「これを持ってきてくださったのは、エリカ主任ですもの」
 一足先にこちらに来ていたのだとか。しかも、これを受け取ったのは昨日、自宅でだ……と彼女は続ける。
「ついでにあれこれとうわさ話をしてくださいましたので、こちらも対処が出来ましたわ」
 この言葉に、キラはますます首を横にかしげた。
「襲撃のことまではわかりませんでしたが……逃げ出す方法だけは教えて頂けましたの」
 だから、最悪の場合を考えてザフトの艦をその脱出ルートに配置しておいたのだ……と彼女は続けた。
「おかげさまで、あちらが使っていた秘密ルートを全て把握できたそうですわ」
 最近、ブルーコスモスのテロが増えてきた理由もそれで納得できた。
 と言うことは、セイランがそれを手引きしていた、と言うことなのか。だが、そのことがオーブの責任問題に波及することはないのか、とキラは不安になる。
「……そこまでは、わたくしにもわかりません」
 ただ、とラクスは口を開く。
「現在、オーブはセイランの影響力が大きくなっております。その理由は……セイランが他の首長家の当主を不当に軟禁していたから、と言うことまでは調査が進んでおりますわ」
 それも、カガリがこっそりとこちらに情報を流していてくれたからだ。この言葉に、キラは目を丸くする。
「もちろん、アスラン達も知っておりますわ」
 さらに重ねられた言葉に、キラの驚愕は怒りへとすり替わっていく。
 自分は何も知らされていない。
 それが彼等の配慮なのだ、とはわかっていても、少し面白くなかった。
「それについては、カガリの希望もあったのですわ」
 キラの気持ちを察したのだろう。ラクスは苦笑と共に告げてくる。
「キラがここから出られないことは、皆、知っております。だからといって、その表情を読み取れないわけではないですわ」
 その言葉に、別の意味で表情が強ばる。
「ともかく、カガリからの手紙を読んで上げてくださいませ」
 それを読めばきっとわかるはず。そうラクスは続ける。
「手紙のことは、アスラン達も存じておりますわ」
 だから、何も心配はいらない。その言葉にキラは彼女の手から封筒を受け取った。それにタイミングを合わせるように、ハロがペーパーナイフをキラの方へと移動させる。
「あらあら。お利口さんですわね」
 ピンクちゃんも負けてはいけません……と彼女は己のハロに向かって口にしている。
 それを横目にキラは封を切った。
 中から引っ張り出した便せんは、折り目が少しずれていた。そういうところはカガリらしい、と言っていいのだろうか。
 そんなことを考えながら、封筒を開いていく。そして、そこに書かれてある文面に視線を落とした。
 真っ先に書かれていたのは、謝罪の言葉だ。
 その後に、状況の説明。出来るだけ冷静に書こうとしているのはわかるが、所々書き間違いがあるのは何なのだろうか。
 だが、逆に言えば、それだらこそ、彼女の本当の気持ちがわかるような気がする。
 だからこそ、どうしてオーブが自分を追い出しようなことをしたのか。それがわからない。
 もちろん、今が不幸なわけではない。むしろ幸せだと言っていいだろう。
 それでも、あの日のことを思い出すとどうしても納得できない思いがわき上がってくるのだ。
「……キラ。聞きたいことは、直接、本人に聞いてください」
 それが一番いい方法だ。ラクスは微笑みながらこう言ってくる。そんな彼女に、キラは静かに頷いて見せた。


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