キラに話がある。そういって、ラクスがこの場から彼を連れ出してくれた。それは、これから話す内容を彼に聞かせないように、と言う配慮なのは言うまでもない。
「……訪ねてきたのは、オーブの人間――おそらくセイランの関係者でしょうね」
 あることないことを言って、自分たちにキラを排斥させようとしてくれた。ニコルはこう言う。
「バカだろう、そいつ」
 即座にイザークが言葉を口にした。
「と言うよりも……思い切り逆鱗じゃねぇ?」
 そんなものに触れてただですむはずがない。ディアッカは視線を二人が消えた方へと向けながら、言葉を口にする。
「第一、アウェイだろう? 相手の方が」
 二人の関係者の中にはキラの《音》のファンも多いはず。そんな人間達の前で迂闊なセリフを口走れば、即座に冷たい視線にさらされる結果になったのではないか。
「俺だったら、耐えられないよな」
 それよりも、最初から白旗を揚げる……と彼は続ける。
「……少なくとも、同行してきたオーブの駐在員の方はわかっていたようですよ」
 相手を止めようとしていたから、とニコルはため息をつく。
「まぁ、あの方には以前、きっちりと状況を説明させて頂きましたけどね」
 骨の髄までたたき込ませて頂いた。そう続ける彼に、アスラン達の方がため息をつきたくなる。
「よく、国際問題にならなかったな……」
 そういうことをしていて、と思わず口にしてしまった。
「正論だけでも十分論破できましたから」
 正論をたたみかけたら、相手の方が先に根を上げただけだ……とニコルは笑う。
「……そういうことか……」
 正論の方が相手にとってはダメージだった、と。
 逆に言えば、あちらも『無理だ』とわかっている内容をごり押ししようとしていたのか、とあきれたくなる。
「……いったい、どうしてそこまでキラに執着するんだ?」
 イザークがあきれたように口にした。
「今、あいつの意志を無理して連れ戻そうとするくらいなら、最初からあいつらが保護しておけばよかっただろうに」
 もっとも、自分たちがそれを認めたかどうかは別問題だが……と彼は続けた。
「だよな。道理を曲げてでも無理を通したかもしれない」
 キラにとってどちらが幸せなのか、それを考えれば……とディアッカも頷いてみせる。
「もっとも、あちらも既にタイムリミットが来ていると思いますよ」
 オーブ本国の使節がもうじき来るだろう。それまでに全てを終わらせてしまわなければ、疑われるのはあちらの方だ。
「……そう考えれば、実力行使という点では、今日がぎりぎりだった、と言うわけだ」
 だが、それは諸刃の剣だった、と言うだけだ。イザークはそう告げる。
「後は、親父達がこちらに優位になるように交渉してくれることを祈るだけだ」
 さらにディアッカがこう続けた。
「それに関しては、心配しなくてもいいだろう」
 キラを失うことは――個人的な感情を抜きしても――プラントにとっては大きな損失だ。それに、彼はまだカウンセリングを受けなければいけない。
 そんな人間を放り出すほど、プラントは無情ではない、と思いたい。
 第一、パトリック達がそれを許すはずはないのだ。
「……まぁ、それでも父さん達に釘を刺しておいた方がいいでしょうね」
 ニコルがにこやかな表情と共にこんなセリフを口にする。
「任せる」
 自分がするよりもニコルがやった方が確実だろう。ディアッカは即座にこういった。
「どういう意味ですか?」
 だが、それにニコルが気に入らないという表情を作る。
「俺たちだと、親父達に言い負かされる可能性がある、ってことだ」
 ディアッカは慌てたように理由を口にした。
「イザークだって、エザリアさんには勝てないしな」
 アスランならどうかはわからないが、それでも、パトリックがキラに不利になるようなことをするとは思えない。だから、と彼は続けた。
「だから、お前とラクス嬢に頑張って貰いたいわけ」
 力仕事なら任されるから。
 こ言われて、とりあえず納得をしたのだろう。
「そういうことなら、わかりました」
 でも、自分たちもそれなりに努力をしろ。ニコルはこう言い返してくる。
「はいはい」
 ディアッカの返答に、誰もがあきれたような視線を向けた。


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