「……とりあえず、誰かが帰ってくるまで俺は動けない」 わかっていると思うが、とアスランはラスティに告げる。 「あぁ、わかっている。キラを一人にしない方がいいだろうからな」 今回のことに関しては、自分も一緒にいた。だから、当面の報告に関しては心配はいらない。そういって彼はアスランの肩を叩く。 「何なら、俺たちがまた来るからさ」 そうすれば、キラから目を離さずにすむだろう? とラスティは続けた。 「すまない。みんなが戻ってくれば俺が出かけても大丈夫なんだろうが……」 イザーク達はイザーク達で状況を説明しなければならない立場にあるはず。だから、彼等がいつ帰ってくるのか、それこそわからない。 「……ラクスとニコルだと、別の意味で怖いし、な」 できれば、こちらが落ち着くまでは帰ってきて欲しくないのだが、とアスランはため息をつく。 「多分、もうしばらくしたら帰ってくるんだろうな」 キラが連絡をしたはずだ。そして、それだけで二人には何かあったとわかるはず。 「……俺、失礼させて貰っていいか?」 流石に、あの二人の口撃はパスしたい……とラスティは表情を強ばらせた。 「……キラが傍にいてくれれば、そんなにきつくはないと思うぞ」 彼の前であれば、あの二人も直接的な口撃はしてこないだろう。もっとも、さりげなくイヤミを言われるのは覚悟しておかなければいけないだろうが。 「まぁ、無視できると思うぞ」 少なくとも、自分たちはそうしている……とアスランは笑った。 「……お前らだから可能なんだって」 自分では無理だ、とラスティはため息をつく。 「無理にとは言わないが……きっと呼び出されるぞ?」 ラクスに、とアスランは苦笑と共に言い返す。 「あぁ、否定できない」 彼女であれば、とラスティは頭を抱える。 「俺の言葉だけでは『信頼できない』といいそうだしな、彼女は」 かといって、矛先をキラに向けることはない。そうなれば、消去法でラスティに確認するしかないと考えるだろう。 「今現在、お前に帰還命令が出ていないのは、そのせいかもしれないぞ?」 ラクスが手を回したからかもしれない、と追い打ちをかけるようなセリフを口にした。 「……やめてくれ……」 まじであり得そうなんだから、とラスティはぶるっと体を震わせる。そのまま、本気で逃げ出したいというように周囲を見回す。 まるでそのタイミングを見計らったかのようにドアのすきまからキラが顔を出した。 「どうした、キラ」 何かあったのか? と思いながらアスランは彼に声をかけた。そうすれば、キラが端末を差し出してくる。 「誰からのメールだ?」 ラクス? と思わず問いかけてしまったのは、先ほどまで話題に上っていたからだろうか。しかし、それにキラは首を横に振って否定してみせる。 「……イザーク達?」 同じくらい可能性がありそうな連中の名前を口に出せば、今度は首を縦に振って見せた。 「そうか」 いったい、何を書いてきたのか。そう思いながら、キラの手から端末を受け取る。 【状況を連絡しろ!】 一言だけしか書かれていない文面でも、十分に誰からのものかわかってしまった。だからこそ、キラは自分に相談を持ちかけてきたのだろう。 「まったく……自分たちの方はどうなんだ……」 ため息とともにアスランはこう呟く。それでも彼の指は返答を記すために動いている。 「まぁ、メールをよこせるというのであれば、無事なんだろうが」 しかし、どこかせっぱ詰まったような感じがするのは何故なのだろう。 「……それとも、まだ終わっていない、と言うのか?」 今までのは全て陽動だったのか、と不意にアスランは呟く。 「何を言っているんだ?」 そんな彼に、即座にラスティがつっこんでくる。 「これだけ大がかりなことをして、それが陽動だって言いたいのか?」 だとするなら、ずいぶんと大きな捨て駒だよな……と彼は続けた。 「俺だってそう思うさ」 だが、とアスランは続ける。 「今、一番気を抜いているのは否定できない事実だろう?」 その隙を狙われたら対処しきれるだろうか。 「杞憂なら杞憂でいいさ」 自分が心配性だ、と言うことで終わるだけだろう? とアスランは笑った。 「まぁ、そうだよな」 何事もなければそれでいい。だが、何かあったらまずい。ラスティもこう言って頷いても見せる。 「あるいは、ザフトの上層部もそう考えているのかもしれないな」 ラスティに帰還命令が出ないのは、ラクスが裏から手を回したからではなくまだ何かあるかもしれない。そう判断してのことではないか。 そこまで口にしたとき、不安そうな表情を作っていることに気がつく。 「大丈夫だ、キラ。俺たちがこうして気がついた以上、何があっても対処できる」 だから、何も心配しなくていい。それに、とアスランは微笑む。 「イザーク達も戻ってくるようだしな」 彼等が来れば、何があっても大丈夫だから……とその表情のまま告げる。 「それよりも、片づけを手伝ってくれ」 こちらの方が最優先事項だ。そう告げれば、不安は消えない様子のまま、キラは頷いてみせる。一人ではないという方が彼には重要なのではないか。そう考えながら、アスランはキラの髪の毛に指をからめた。 |