ニコルの端末が小さく震える。
「……メールのようですね」
 失礼、と謝りながら端末を取り上げた。そして差出人を確認する。
「アスラン?」
 何かあったのか。
 そう考えて慌てて中身を確認する。
「……そうですか」
 中を確認しながら、ニコルはこう呟く。同時に、地を這うような低い笑いが口からこぼれ落ちた。それに周囲の者達が引いていることも気にしない。
「あら。どうかなさいました?」
 だが、それを気にせずに声をかけてくるものもいる。もちろん、それはラクスのことだ。
「アスランからのメールですが……ごらんになります?」
 口で説明をするよりもそちらの方が早い。そう思って、ニコルは彼女に端末を差し出した。
「よろしいのですか?」
 ニコル個人に当てたものではないのか。ラクスはそう問いかけてくる。
「構いません。間違いなく、僕がラクスさんに見せるとアスランも考えているはずですから」
 文面から判断して、と続けた。
「では、遠慮なく」
 この言葉とともにラクスは彼の手から端末を受け取る。そして、モニターへと視線を落とした。
「これは……どう判断すればよろしいのでしょう」
 微かに苛立ちを滲ませながら彼女は口にする。
「ケーキは構いませんわ。出かけるとき、キラに約束をしましたから」
 しかし、と彼女は続けた。
「何故、夕食なのでしょうか。アスランがデリバリーを頼むなんて、今までありませんでしたわ」
 キラにとってよくないものが入っているかもしれない。過保護の象徴とも言えるそのセリフを口にしていた人間が、いったいどうして……とラクスは首をかしげる。
「……ひょっとして、キッチンが使えなくなったとか……」
 だからといって、食事をしないわけにはいかない。だから、とニコルは首をかしげる。
「申し訳ありませんが、理由を確認してくださいませんか?」
 どうして、夕食を購入していかなければいけないのか。ラクスはそんな彼にこう言ってきた。
「状況次第では、すぐに帰らなければいけませんでしょう?」
「そうですね」
 そうしましょう、とニコルは頷く。そして、ラクスから端末を返してもらい、即座に返信の文面を打ち込む。
「なんて言ってくるでしょうね」
 その内容次第で、きちんと報復をさせてもらわなければいけない。ニコルはそれを送信しながら、こう呟く。
「……もちろん、アスランにだけ、ですわよ?」
 キラは巻き込まれただけに決まっている。そういいきれるラクスもかなりなものではないだろうか。
 しかし、ニコルもそう思っているから似たようなものなのかもしれない。
「そうですね」
 考えてみれば程度の差はあれ、幼なじみ組の認識は共通なのではないだろうか。アスランもそれをわかっているはずなのに。
「早いですね」
 もう返事が来ました、とニコルが呟く。そのまま端末に視線を戻せば、そこに表示されている名前はアスランのものではなかった。
「キラさん?」
 アスランに出したはずなのに、と思いながら本文を表示させる。
「キラが何と?」
「……キッチンは無事だそうですが、食器が全滅だそうです」
 今、アスランがそれを片づけている最中だ、とニコルは続けた。逆に言えば、厄介な状況は既に過ぎ去っていると言うことだろう。しかし、それならばどうしてその時に教えてくれなかったのだろうか。
 あるいは、その余裕がなかったのかもしれない。
 とりあえず、そういうことにしておこう。
「……それでは、食事の他に食器も用意した方がいいのでしょうか」
 ラクスはラクスでこんなことを口にした。
「僕の部屋から運べばいいだけですよ」
 でなければ、残りの二人の部屋からか。ディアッカの部屋ならばきっと、アスラン達の所に負けないくらい揃っているだろう。
「それならば、後でキラと一緒に選ばせて頂きましょう」
 その後でアスランを締め上げさせて貰おうか。ラクスは柔らかな笑みと共にこう告げる。
「協力させて頂きます」
 ニコルもまた微笑みと共にこういった。


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最遊釈厄伝