アスランとラスティが何やら話し合っている。その様子をキラは黙ってみていた。
 しかし、自分に口を挟む余地がない。それを理解して、何気なく視線を外へと向ける。
 次の瞬間、彼の目は大きく見開かれた。
 抱きしめていたはずのハロが、そのまま手の中からこぼれ落ちる。
「キラ?」
 どうかしたのか、とアスランが歩み寄ってきた。それに、キラは空を指さすことで答えを告げる。
 地球上と違い、プラントはある意味、閉じられた世界だ。そのせい、と言うわけではないが、プラント内の空を飛ぶ存在などほとんどないと言っていい。
 だが、そこには黒いシミがいくつか存在していた。
「……空から来たか……」
 確かに、ここに入るにはそれしか方法がないだろう。アスランはこう呟く。
「ハンググライダーって奴か」
 側に寄ってきていたラスティもこう告げる。
「エンジンのたぐいを使えば、一発でばれるからな」
 選択としては悪くはない。だが、とアスランは笑いを漏らす。
「だが、こちらがその可能性を考えていなかった……と考えているなら浅はかだな」
 それなりの供えはしてある。そういいながら、彼はキラへと視線を向けてきた。
「キラ」
 それに、キラは小さく頷いてみせる。そして、指を二本立てて見せた。
「いや、どうせなら最強モードにしておけ」
 時間稼ぎをするにしても、諦めさせるにしても最初から閉め出した方がいいのではないか。アスランはそういってくる。
 なら、中庭に入れてしまってから上を閉めるのではいけないのか。
 中の方は防御壁を出してしまえばいいだけだろうし……とキラは思う。
 そして、それを説明するために簡単な身振りを加えながらアスランを見つめた。
「……その方が確実に犯人は捕まえられるか」
 確かに、有効な手段ではあるが……と彼は呟く。
「問題はお前の方だ」
 連中は間違いなく攻撃をしてくるだろう。それを見ていて精神的に大丈夫なのか? と逆に問いかけてくる。
 キラはそれに、寝室の方を指さすことで答えを返した。
「まぁ……あそこにいれば安全だが」
 それでも音まではシャットダウンできないぞ、とアスランは付け加える。それにキラは、耳を両手で塞ぐ仕草を返す。
「ヘッドホンか……」
 確かに、それで音を聞いていれば安全かもしれない。問題は、自分が声をかけてもキラが鍵を開けてくれるかどうかだが……と彼はさらに眉間にしわを寄せる。
 別にそんなに心配をしなくてもいいのに。
 そう思いながら、キラはパソコンを指さす。
「あぁ。メールか」
 確かに、それならば大丈夫だろう……と彼は頷く。
 そうしている間にも、かなりハンググライダーは接近している。
「わかった。なら、そうしよう」
 これ以上悩んでいる暇はない。そう判断したのだろう。アスランはこういった。
「構わないな、ラスティ?」
 そのまま、視線を彼に移してこう問いかける。
「もちろん」
 ニヤリ、と笑いながら彼は頷いて見せた。
「キラが隠れていてくれるなら、下にいる連中をこちらに呼び寄せられる」
 だから、自分の方は逆に都合がいい。彼はそう付け加えた。
「そうか」
 なら、後は実行に移すか……とアスランは頷く。
「キラ。寝室に行ったら、ついでにイザークに連絡を入れておいてくれ」
 彼等にも状況だけは連絡をしておかないといけないだろう。その言葉には納得できる。しかし、そういうなら、ラクス達にも連絡を入れた方がいいのではないか。
「ラクス達が帰ってくると、それこそ大騒ぎになるからな」
 だから、彼等には事後連絡だけでいいだろう。そう付け加える。
 わかった、と頷き返すと、キラはそのまま寝室へと向かう。その後を当然のようにハロがついてきた。


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