「単刀直入に聞くぞ」
 こう言いながら、ラスティはキラの前に先ほどの相手の顔写真を差し出す。
「こいつに見覚えはあるか?」
「……お前の叔父だ、と言っていたが」
 ラスティの後に続けて、アスランがこう問いかける。それにキラは頷いた後首を横に振って見せた。
「見覚えはあるが、お前の叔父ではないんだな?」
 アスランはラスティにも今の仕草の意味がわかるように聞き返す。それを肯定するように、キラはしっかりと首を縦に振った。
「ウズミ様の部下か?」
 この言葉に、キラは今度は首を横に振る。だが、次の瞬間、困ったような表情を作った。
「キラ?」
 どうしたのか。そう問いかけるアスランの前で、キラはハロをテーブルの上へと移動させた。そして、そのままキーボードを接続する。
 普段、自分との生活ではそのようなことをしたことがない。そんなことをしなくても、意思の疎通が可能だ、と言うのがその理由だ。
 しかし、ハロの音声機能を使おうとしている。それでは伝えきれない微妙な内容なのだろうか。アスランはそう考えて、少しだけ目を細めた。
『ウズミ様の部下ではないけど、カガリと一緒にいた』
 そんな彼の耳に、こんなセリフが届く。
「カガリと?」
 この言葉にキラは頷いてみせる。
「それなのに、ウズミ様の部下ではない? なら、他のアスハの方の部下か?」
 と言っても、ぱっと思い浮かぶのはホムラだ。彼の部下であれば、カガリと一緒にいてもおかしくはないはず。
 しかし、キラはそれにも首を横に振ってみせる。
『はっきりと聞いた訳じゃないけど……セイランの部下、だったと』
 この一言に、アスランの表情が強ばった。
「セイラン、だと?」
『そう……あの時、カガリが傍についていてくれたんだけど……そんなことを言っていたような気がする』
 でも、はっきりとは覚えていない……とキラは続ける。それは無理もないだろう。自分たちが駆けつけたとき、キラは呆然として何も考えられないような様子だった。そして、それは当然だろう、とアスランは考えている。
「だが……俺は会ってないぞ?」
 あの時、直ぐに駆けつけたのに、とアスランは言い返す。
『……アスラン達が来る前に、あの人だけ帰ったから』
 その後でキサカが来たのだ、とキラは告げた。
「って事は何だ? 今回のことにセイランが絡んでいると言うことか?」
 今まで黙って話を聞いていたラスティがこう問いかけてくる。
「と言うより……俺はセイランが主犯じゃないかと思っている」
 あの一族であれば、キラが今どこにいるのか。そして、バイオリンの行方を知っていてもおかしくはない。
 それに、とアスランは吐き捨てるように言葉を重ねた。
「セイランはコーディネイターを自分たちよりも下の存在だ、と考えているからな」
 そんなに連中が、どうしてキラの元に部下を寄越したのか。
 そして、どうして先に引き上げさせたのか……とアスランは続ける。
「まぁ、後者に関しては推測が出来ないわけではないが」
 キサカが直ぐに手を放せる状況ではなかった。だから、代わりについてきたのではないか。そういわれれば納得できるかもしれない。
 だが、何かが引っかかるのだ。
「……それなら、何で、今回キラに接触してきたんだ?」
 自分のことを覚えているかもしれない。そのせいで警戒をされるとは思っていないのか、とラスティは言ってくる。
「わからない」
 きっと、何かを考えているのだろうが……とアスランは顔をしかめた。
「この前の一件もあるからな。まだ、警戒を解くわけにはいかない、と言うことだろう」
 キラがいるかどうか。それを確認しに来たのではないか。
「ともかく、ニコル達にも連絡しておいた方がいいだろうな」
 今回のことを耳に入れているといないとでは、彼等の対応にも差が出てくるだろう。アスランはそう告げる。
「何事もないのが一番だがな」
 そういうわけにはいかないだろうな、とラスティもため息をつく。
 だが、直ぐにキラに視線を向けると『まずい』という表情を作った。それはアスランも同じだ。
「だからといって、お前のせいじゃないからな」
 バカのやったことだ、と告げる。
「大丈夫。今日中に全てを終わらせてやる」
 だから、余計なことを考えるな。そう言葉を重ねる彼に、キラは小さく頷いて見せた。


INDEXNEXT



最遊釈厄伝