「失礼」 言葉とともに顔を出したのは、アスランも顔見知りの相手だった。 「悪い、ラスティ」 彼でよかった。そう思いながらこう告げる。 「いや、いいって」 気にするな、と彼は言い返してきた。 「俺だって、キラとは顔見知りだしな」 バカから民間人を守るのは当然のことだ。ラスティはこう言って笑う。 「とりあえず、そいつの顔はプリントアウトしてきたし……仲間が追いかけていったから」 どこに向かっているのか、直ぐにわかるだろう、とさらに付け加える。 「俺としては、答えはわかっているような気がするけど、な」 「……そうだな」 おそらく、目的地でイザーク達と顔を合わせるのではないか。そんな気がする。 「それよりもキラは?」 元気なのか? とラスティは問いかけてきた。 「あぁ。ちょっと待て」 彼であれば、キラも大丈夫だろう。そう思ってアスランは寝室の方へと向かう。 「キラ。ラスティが来ている」 顔を出せるか? と端末を使って中に呼びかけた。そうすれば、直ぐにドアが開く。そのすきまから、キラがそっと顔をのぞかせた。その様子が、子供がこちらをのぞき込んでいるようで可愛い、と言っては本人の機嫌をまた損ねるだろう。 「先ほどのことでお前に確認したいこともある。だから、彼に来てもらったんだ」 必死に表情を引き締めながらこう告げる。 それにキラは小さく頷いて見せた。そして、おずおずと歩み出てくる。彼の手にしっかりとハロが抱きしめられているのは、きっと、ラスティと話をする必要を感じているからだろう。 「久しぶりだな、キラ」 元気そうで何よりだ、とラスティは人なつっこい表情で手を振ってみせる。 彼のそんな態度に安心したのか。キラは小さく頷いて見せた。 「ともかく、座れ」 今、お茶を用意して来る、とアスランは続ける。 「ラスティなら大丈夫だろう?」 直ぐに戻るから、と不安そうな視線のキラに告げた。 「そうそう。とって食わないから」 しかし、ラスティのこの一言で台無しになったような気がするのは錯覚か。だが、意外なことに、キラはそんな彼に苦笑を見せている。どうやら、危険はないとわかっているようだ。 その事実にほっとしながらアスランはキッチンへと戻る。 「……こっちは出しても大丈夫か」 一番最初にキラが焼いたクッキーを見ながらこう呟く。数があるから、多少減っても誰も気にしないだろう。 そう考えて、手早く皿に盛る。そして、お湯を沸かすと紅茶を用意してリビングへと戻った。 ラスティの言葉にキラが何か考え込んでいる。 「どうした、キラ」 何か無理難題でも言われたか? とアスランはそんな彼に問いかけた。 キラは苦笑を浮かべると首を横に振ってみせる。 「酷いな。俺がキラをいじめるとでも思っていたのかよ」 ラスティはラスティで苦情を口にした。 「たんに、今、ネットで話題になっている曲のことを聞いていただけだって」 誰が演奏をしているのか公表されていない。だが、ラクスやニコル、それにキラの演奏を聴いたことがある者達は、絶対に三人のコラボだろうと言われているのだ。だから、本人に確認しようとしていたのだ、と彼は続ける。 「なのに、こいつは口が堅いから」 頷いてもくれない……とため息とともに付け加えた。 「そんなことをしたら、ラクス達に怒られるからに決まっているだろう」 アスランはこう言いながら、手早くカップをそれぞれの前に置く。そして、ポットから紅茶をつぎわけた。 「やっぱ、なぁ……」 それでも、キラなら大目に見てもらえると思っていたのだ。ラスティはそういってため息をつく。 「まぁ、そのうちにわかると思うぞ」 それよりも、今は殺気のことを優先してくれ。そう告げるアスランに、ラスティは頷いて見せた。 |