イザークが持っていた端末が着信を告げる。 「俺だ」 待ちかねたように彼はそれを取り上げた。 もっとも、連絡が来るのを待っていたのは自分も同じだ。だから、と思いつつ、アスランが用意した装置のスイッチを入れる。 『僕です』 そんな彼の耳に、スピーカーからニコルの声が聞こえてきた。 『フェーズ1終了。こちらの被害は、ラクスさんの親衛隊の一人が足をひねった程度です』 それでも、キラには内緒にしておいて欲しい。彼はそう続ける。 いくら、最初から想定された被害の範囲内とはいえ、自分のことで誰かがケガをする。その事実をキラが何事もなく受け入れられるはずがないのだ。 その結果、ようやく安定してきた彼の精神のバランスがまた崩れては意味がない。 「了解。後はこちらに任せておけ」 お前達はそのまま、本来やるべきだったことをやれ……とイザークは口にする。 『僕も合流しますか?』 そのセリフの裏に、何やら剣呑な者が含まれているような気がするのは、錯覚だろうか。いや、そうではないだろう……とディアッカは頬を引きつらせる。 「大丈夫だ。お前の場合、手をケガするわけにはいかないだろう?」 同じものを感じたのか。イザークも微かに表情を強ばらせながらこう言い返していた。 「そういうことは俺たちに任せておけ」 それよりも、コンサートの準備をしっかりとしろ……と彼は続ける。 「キラを放り出したオーブの連中に、あいつの演奏のすごさを見せつけるんだろう?」 そのために、あれこれ準備をしていたのではないか。彼はさらに言葉を重ねた。 『そうでした』 どうやら、本気でその事実を忘れていたらしい。逆に言えば、彼は本気で犯人を自分の手でいたぶるつもりだったのだ。 「……必要なことを聞き出すこともできねぇ状態にするつもりだったのか……」 ぼそっと、ディアッカはこう呟く。 『いやですね、ディアッカ。そこまではしませんよ、僕だって』 聞こえないくらいの声量だと思っていたのに、ニコルはしっかりと聞き取ったらしい。こんなセリフが響いてきた。 「バカが」 あきれたようにイザークはこう言ってくる。 「本気で怒っていたら、その位するかな……と思っただけだ」 キラのあの様子を見ているなら、なおさらではないか。とりあえずそう言い返しておく。 『本音を言えば、そうですけどね。流石にそれでは大本をたたけないじゃないですか』 本当にキラのためを考えるのであれば、そちらの方が重要だろう。ニコルの言葉に、彼がとりあえず冷静だと判断をする。 「その時は、家の母を含めた者達が本気で相手を叩きつぶすさ」 もちろん、自分たちも……とイザークが告げた。 「よし! 捕まえたぞ」 その時、モニターに光点が映し出される。それは同時に表示されている地図をゆっくりと移動していく。 「わかった。そういうことだ、ニコル」 自分たちはそれを追いかける、とイザークが口にする。 『わかりました。絶対に逃がさないでくださいね』 「もちろんだ」 ニコルの言葉に、イザークはしっかりと頷いて見せた。 「だから、切るぞ」 『はい。お気をつけて』 この言葉を聞いたところでイザークは通話を終わらせる。 「ディアッカ!」 そして、そのまま視線を向けてきた。 「わかってるって」 この速度なら、歩いているな……と言いながらディアッカはエレカを発進させる。 同じように徒歩でないのは、途中で相手がエレカに乗り込む可能性を考えてのことだ。 もちろん、多少の無理をしても警察に掴まらないように根回しをしてある。だからというわけではないが、無茶をしたくなるのはどうしてなのだろう。 「だから、ナビを頼む」 流石に運転をしながら相手の居場所を確認するのは難しい。だから、と付け加えた。 「言われずともわかっている」 任せておけ、とイザークは言い切る。それを確認して、ディアッカはアクセルを踏み込んだ。 |