「元通りになっただろう?」 微笑みながらアスランはキラに問いかける。それに彼は安心したように微笑み返してきた。 「後は……ダミーの依頼をしないとな」 もっとも、それに関しては明日でもいいだろう。 昨日の今日で迂闊な行動を取るとも思えない。 何よりも、パトリック達が手を回してくれたからか、この周辺のセキュリティは最高行儀会議事情並みまであげられているらしい。誰もそれに意義を申し立てないのは、このマンションに自分たちがいるからだろう。 公私混同、と言われるかもしれないそれも、次世代を生み出しにくいコーディネイターであれば多めに見てもらえるものらしい。 自分たちはいずれ、このプラントを支える存在になる。その義務があるからこそ、だろうが。 「今日は疲れただろう?」 しかし、今はそれよりも優先すべきことがある。そう判断をしてアスランは微笑んだ。 「お風呂に入って寝ようか」 キラが眠ってしまった後にベッドから抜け出して作業をすればいいだろう。そう思ってこう口にする。 アスランのそんな考えに気付いているのか。キラは真っ直ぐに彼を見つめてくる。 「大丈夫。俺も一緒に寝るから」 それとも、とふっと目を細めた。 「一緒に風呂にはいるか?」 この言葉を耳にした瞬間、キラは驚いたように目を丸くする。だが、直ぐに激しく首を横に振り始めた。 「……別に何もしないぞ?」 それとも、期待をした? と付け加えた瞬間だ。アスランの顔に思い切りクッションがたたきつけられる。もっとも、柔らかいそれが彼を傷つけることはないが。 そのまま、キラはきびすを返すとバスルームへと歩いていく。 「着替えを忘れているぞ」 そんな彼の背中にアスランは声をかける。 それに、キラは足を止めた。そのまま憮然とした表情でベッドルームへと行く先を変える。 「本当にキラは」 そういうところが可愛いよな、とアスランは笑う。だが、それは直ぐに消えた。 「今のうちに、こちらの作業をしてしまわないと、な」 キラに知られたら怒られるだろう。だが、それでも……とアスランは表情を引き締める。 だが、必要だから、妥協して貰おう。 そう思って、キラから預かったコピーの方のメモリを取り上げた。 「ニコルの作ったプログラムは、キラのそれと違ってえぐいからな」 手の中のそれを見つめながらアスランはこう呟く。 「……キラが作ったら、別の意味で厄介なものになりそうだけど、な」 さらにこう付け加えたときだ。タイミングがいいのか悪いのか、キラが戻ってくる。しかも、しっかりと彼の耳に届いてしまったようだ。何のことだというように背中からのしかかられる。 「ハッカーに対する撃退プログラムだよ」 キラが作ると、相手のマザーを破壊しかねない。それでは意味がない時があるから……とアスランは笑い返す。 「と言うわけで、着替えとタオルの準備が出来たのか?」 その表情のままこう問いかける。 「それとも、本気で俺と一緒に入りたいのか?」 なら、無条件でご希望に添うようにするが……とさらに言葉を重ねた。しかし、それは絶対にいやらしい。キラは首を横に振るとアスランの背中から離れる。そして、そのまま逃げ込むように、バスルームへと駆け込んでいった。 「あんなに嫌がるなんて……何かしたっけか?」 こう言いながら、アスランは記憶の中を探る。 そうすれば、あれこれ、原因ではないかと思いあたるものが出てきてしまった。 「……だが、普通のことだよな」 バスルームでそういうことをしたとしても、とアスランは続ける。恋人の裸を見て、そういう気持ちにならない方がおかしいだろう、とも。 だが、キラはそっちの面には疎いから、と苦笑を浮かべる。 「まぁ、それは脇に置いておくか」 それよりも先に、これにプログラムを仕込んでしまおう。そう呟くと、手早くパソコンを立ち上げる。 「早々に解決してくれればいいんだが」 でなければ、これで解決の糸口が見つかって欲しい。でなければ、キラの精神の方が持たないかもしれないし、と続ける。 「そうなったら、皆の攻撃を受けるのは、間違いなく俺だろう」 それがべつに構わない。しかし、そのせいでキラの面倒を見られなくなるのは困る。 こんなことを考えてしまうのは、自分がどこかおかしいからか。それとも……と悩みながらも、指はきっちりと作業を進めていく。 そんな自分をほめてもいいのだろうか。アスランは少し悩んでしまった。 |