食事を終え、後始末をしてしまえば解散……と言うのがいつものパターンだ。しかし、今回は誰も戻ろうとはしない。
「……ここからなら、はがせるかな」
 しかも、目立たないように。そういながら、アスランは内張の継ぎ目に、そっとナイフの先端を押し当てる。
 そのまま、そっと持ち上げるように布をはがしていく。
 やがて、ナイフの先に堅いものがぶつかった。
 そこで、ナイフをそっと抜く。代わりにピンセットをそのすきまに滑り込ませた。直ぐに、目的のものまでたどり着く。
 それを挟んで慎重に引き出そうとする。
 意外なほどに、それは外へと滑り出てきた。
「取れた」
 ほっとして、アスランはこう告げる。
「キラ……悪いが、これをコピーしてくれ。そうしたら、元に戻すから」
 これも元の場所に、とアスランは続けた。それに、キラは小さく頷いてみせる。
「……しかし、大丈夫なのか?」
 乱暴に扱っていたようだが、とイザークが問いかけてきた。
「このタイプのメモリカードは衝撃に強い。物理的に破壊しなければ、内部のデーターが壊れることはないはずだ」
 アスランの言葉に、キラもまた頷いてみせる。
「軍でも使われているものだ。とりあえず、信用しても大丈夫だろう」
 キラ、とアスランは彼を促す。
 それにキラは静かに立ち上がった。そのまま、自分のパソコンが置いてあるコーナーへと向かう。
「……いったい、どんなデーターが入っているのでしょうか」
 キラの次にデーター管理に強いニコルが興味津々といった様子でついていく。
「まったく、あいつは……」
 そんな彼の様子に、少しあきれたような声音でイザークが呟いた。
「まぁ、いいんでね? あいつはあれでもキラのことをフォローしてるんだし」
 ああいう態度なのも、キラのことをあれこれ考えているからではないか。ディアッカがこう言って彼をなだめている。
「だといいがな」
 とても、そうは見えないが……とイザークは言い返す。
「少なくとも、ニコルのおかげでキラは外にも目を向けているということはあるぞ」
 キラの演奏について、感想を伝えてくれるのは、彼だ。だから、とアスランはフォローの言葉を口にする。
「お前がそういうなら、そういうことにしておくか」
 どこか信用できない、と言う様子でイザークがこう言い返してきた。それは、キラのことを心配しているからなのか。それとも……と考えてやめる。藪をつついて蛇を出す必要はないだろう。
 その間にも、キラは作業を進めていた。
 モニターに何やらデーターが映し出されているのがアスラン達からでもわかる。
「……凄い……」
 内容を確認し終わったのだろう。ニコルがこう呟いた。
「ニコル?」
「おそらく、オーブのマザーに使われているセキュリティのソースと……それに関係している設計図その他、だと思います」
 ハルマが関わっていたプロジェクトのデーターだろう。そうも彼は続ける。
「……それは、確かに欲しがるものが多いだろうな」
 それだけでも、とイザークも頷く。
「だが、それならオーブにもあるんじゃね?」
 と言うか、そういうものであればバックアップや何かが残されているのが普通なのではないか。ディアッカがこう言ってくる。
「普通ならば、だな」
 だが、とアスランは言葉を続けた。
「それがアスハの専用のものだとすればどうだ?」
 そして、それに関するデーターを欲しがっている者達が引き出せないとすれば……と告げた瞬間、二人の表情が強ばる。
「それって、ものすごく厄介な状況じゃね?」
 アスハのメインサーバーを乗っ取ろうというのは、すなわち、アスハそのものを乗っ取ろうとしていることに等しいのではないか。
「だが、そう考えれば、全て納得できる」
 キラの両親が狙われた理由も、そして今になってキラのバイオリンに目をつけたことも。
 いや、それでだけではない。
 ウズミやカガリの態度も、だ。
 あるいは、自分たちの親ですらそのあたりの事情をつかめないでいるのではないか。
「……ともかく、犯人を捕まえれば情報が手にはいるだろうな」
 そうすればきっと……と呟くアスランにイザーク達も頷いてみせる。
「終わりましたよ、アスラン!」
 ニコルがタイミングを見計らったかのように報告をしてきた。
「了解。キラ、同じメモリはあるか?」
 なければ至急用意をしなければ。そう思っていれば、キラは頷いてみせる。
「なら、そちらにもコピーを。その後で、渡してくれ」
 元のメモリは元の場所に戻しておく。その言葉にキラはまた頷いて見せた。


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