あれこれ相談をしている内に、完全に日が暮れてしまった。
「……しかたがない。夕食はここで食べていけ」
 アスランはこう言いながら立ち上がる。
「手伝う」
 ディアッカもまた、当然のように腰を上げた。
「あぁ、すまない」
 ニコルと自分たちの分だけであればさほど手間ではない。アスランはともかく、他の二人はどちらかと言えばあまり食べない方なのだ――いや、小食なのはキラだけで、ニコルはそれに付き合っているだけらしい――が、イザークとディアッカは違う。
 もっとも、本人達は年相応だと言っている。確かに、そうかもしれないから、あえてそれに関しては口を出さない。
「いつもよりも多めに作らないと行けないから、助かる」
 下手なものも作れないしな、と付け加えたのは、イザークがいるからだ。もっとも、そんなことを言わなくても、味付けを失敗したことはないが。
「……何が言いたい、アスラン」
 イヤミと受け止めたのか。イザークがこう問いかけてくる。
「キラを頼む。まだ、不安そうだからな」
 直接それに言葉を返す代わりに『甘えさせてやってくれ』と笑い返す。
「アスラン?」
「キラも、イザークでいいよな?」
 あくまでもイザークには言葉を返さない。代わりにキラにこう問いかける。
「俺『で』というのは何だ、俺『で』とは!」
 案の定、と言うべきか。イザークはさらに機嫌を損ねたような表情になった。しかし、キラが頷いただけでそれはあっさりと霧散する。
「と言うことで、ディアッカ。手伝いを頼む」
 本当に、誰もがキラには甘い。そう思いながらアスランはディアッカへと視線を向けた。
「わかってるって。何を作るんだ?」
 苦笑と共に彼は聞き返してくる。
「無難なところでハンバーグか?」
 キラの好物だし、あれならば、量の加減もしやすい。
「わかった。なら、付け合わせは俺が作るか」
 その瞬間、キラが何かを主張するかのように、小さく手を叩いた。
「ダメだよ、キラ」
 それだけで何を伝えたいのか想像がついてしまう。
「せめて、グラッセにしてもらうから」
 それで妥協をしろ。そう付け加えると、そのままキッチンへと入る。当然、ディアッカも一緒だ。
「アスラン?」
「にんじんを入れるなって言いたいんだよ、あいつは」
 昔から嫌いだから、と苦笑と共に告げる。
「おばさまも、そんなキラににんじんを食べさせるのにいつも苦労していたよ」
 グラッセやケーキ、ゼリーにすると食べるんだけどな……とさらに言葉を重ねた。
「キラらしいな」
 苦笑と共にディアッカも頷いてみせる。
「なら、グラッセと……ついでにサラダのトッピングにしてやるか」
 ばれないように混ぜてやろう。ディアッカはそう告げる。
「……無理だと思うが……」
 キラのにんじん感知能力は尋常ではない。米粒サイズであれば、確実に選り分けるぞ……とアスランは心の中で呟く。だが、妙に燃えているディアッカに告げることはしない。
 自分の目で確認しないと納得できないだろうな、とも思うのだ。
「サラダとグラッセは頼む。デザートは、果物でいいだろうし……後はハンバーグとスープぐらいか」
 量を考えなければ、さほど手間ではないメニューだ。しかし、量が多いから少しだけ厄介かもしれない。
 そんなことを考えながら、アスランは冷蔵庫の中から材料を取り出す。
「……イザークの奴、珍しくも顔がゆるんでいるな」
 リビングの様子が見えたのだろう。ディアッカが笑いながらこういった。
「ニコルに後でからかわれるな」
 苦笑と共にアスランはこう言い返す。
「サラダの材料はこれでいいのか?」
 そのままこう続ける。
「上等、上等」
 なら、さっさと作るか。そういいながら勝手知ったる何とやら、と言うようにディアッカがナイフを取り出す。それを確認してから、アスランもまたタマネギを刻むためにナイフを手に取った。


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最遊釈厄伝