一通りの話を終えて、パトリックが立ち上がる。
「私も同行した方が良さそうだな」
 その後に続くようにエザリアもまた腰を上げた。
「今日はキラ君の演奏が聴けなくて残念だったわ。次回は、楽しみにしている」
 微笑みと共に彼女はこう告げる。そして、そのまま、キラの髪をそっと撫でた。
 それに、キラは彼女の顔を見上げると小さく頷いてみせる。だが、まだアスランから離れられないらしい。彼の腕をしっかりと抱きしめたままだ。
「大丈夫だよ、キラ君」
 オーブの使節団が来るまでに、きっちりと全てを片づけてみせる。パトリックもまた、こう告げる。
「父上は、こう言うときには絶対嘘を言わないって、キラも知っているだろう?」
 アスランはそんな父をフォローするようにこういった。そうすれば、キラはまた頷いてみせる。
「では、またね」
「今度はこんな用事でとは無関係なときに御邪魔させて貰おう」
 言葉とともに彼等はきびすを返す。
「とりあえず、見送ってくるわ」
 ディアッカがこう言い残すと、二人の後を追いかけていく。
「ニコル」
「わかっています。イザークもどうぞ」
 事前に打ち合わせていたかのようにニコルは彼に言葉を返している。
「そういえば、キラさん」
 だが、それをキラに気付かせなければいいのか。ある意味、強引とも思える話題転換に、内心苦笑を浮かべつつも、アスランは父達の背中を見送っている。だが、意識はニコルの言葉の方へと向けられていた。
「この前のあれですけど、とりあえず、アレンジが完成したので聞いて頂けますか?」
 ラクスには先ほど渡してきたが、と彼は付け加える。
「……あれ?」
 何のことだ、とアスランは思わず口を挟んでしまう。
「内緒です」
 だが、ニコルは満面の笑みと共にこう言い返してきた。
「キラ?」
 ならば、と思って自分の腕にすがりついたままの彼に視線を移す。だが、キラは、首を静かに横に振るだけだ。
「ラクスさまの許可がないとお話しできないんですよ」
 さらにニコルはこう言ってくる。
「……ラクスが絡んでいるのか……」
 それでは、確かに二人が口を割らなくてもしかたがない。そうは理解していても、面白くないと感じてしまう。
「近いうちにわかると思います。ですから、それまでは内密にさせてください」
 決して、キラから無理矢理聞きだそうとするな……とニコルは微笑みと共に告げる。しかし、その微笑みが要注意なのだ、とアスランにはわかっていた。
「……しかたがない。だが、近いうちにきっちりと説明して貰うぞ」
 キラを巻き込んでいる以上、自分人は知る権利がある。アスランはそう主張をした。
「わかっていますよ」
 でも、とニコルは笑みを本心からのものに変えながら言葉を綴る。
「解禁になったときには、きちんと説明させて頂きます。でないと、大騒ぎになるはずですから」
 色々な意味で、と告げるニコルにキラも小さく頷いていた。
「……まったく、お前達は……」
 何を計画しているのか、とアスランは言いたい。
 しかし、キラの表情から強ばりが消えているからいいことにしようか。そうも考える。
「ご心配なく。キラさんを表に出すようなことはありませんから」
 自分たちのところでシャットダウンする予定だ、とニコルは言い返してきた。
「と言うわけで、これはキラさんに」
 それと、と彼はその表情のままさらに言葉を重ねる。
「伝手をたどって、キラさんのバイオリンを作られた職人さんの工房を見つけ出しましたので、その報告を」
 他の二人が戻ってきたところで、させて貰った方がいいだろうか。そう彼は問いかけてくる。
「そうだな。その方が二度手間にならないだろうな」
 きっと、彼等も何かを聞いてくるはずだし、とアスランも言い返す。
「キラも構わないな?」
 こう問いかければ、彼は小さく頷いて見せた。


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