状況を確認しに行ったイザークと共にディアッカとニコルが帰ってきた。いや、彼等だけではない。パトリックまでもが姿を見せた。
「父上……」
 キラを抱きしめているせいで、立ち上がることが出来ない。その事実をどう思っているのだろうか。そう思いながら、アスランは彼に呼びかける。
「そのままでいい」
 悩んでいることに気付いたのか。彼は静かな声でこう命じた。
「キラ君の様子は?」
 そして、近くまで歩み寄ってきながらこう問いかけてくる。
「だいぶ、落ち着きました」
 だが、まだ自分以外の《他人》を拒絶しているのではないか。パトリックの声が聞こえているにもかかわらず、彼は顔を上げようとはしない。
「いっそ、ベッドに連れて行ったらどうだ?」
 そのまま寝かしつけてしまえばいいのではないか、とイザークが口にする。その声に、キラが少しだけ顔を上げた。
「ディアッカとニコルもいるよ」
 だから、顔を上げて……とアスランはキラの耳元で囁く。
 それでようやく、キラはアスランの胸から顔を上げてくれた。そして、三人の姿を見てほっとしたような表情を作る。
「どうする? ベッドに行くか?」
 それに安堵しながらも、アスランはこう問いかけてみた。だが、キラは首を激しく横に振ると、またアスランの胸へと顔を埋める。しかも、おさまったはずの震えがまた復活していた。
「……と言うことだ、イザーク」
 この状況でいるしかない、とアスランは苦笑を浮かべる。
「そのようだな。無神経なことを言ってしまってすまない」
 即座にイザークは自分の非を認める言葉を口にした。その潔さには感心する。
「それで、外の様子はどうなっているの?」
 話題を変えようと言うのか――あるいは、きちんと情報を与えた方がキラのためになると思っているのかもしれない――エザリアがこう問いかけてきた。
「……テロ、だろう」
 それもブルーコスモスの、と言葉を返したのはパトリックだ。そのまま、当然のようにソファーに腰を下ろす。もちろん、彼にその権利はある。だが、あまり迂闊なことを言って欲しくはないな、と思いながらアスランは父の次の言葉を待った。
「もっとも、連中の仕業にしては被害が小さい。幸い、と言うべきか、死人はでなかった」
 おそらく、別の目的があるのだろう。そういいながら、パトリックはキラへと視線を向ける。
「……何があろうとも、キラがこの部屋から飛び出すことはあり得ないのに」
 ため息とともに、アスランはこう呟く。
「そうだよな。他の部屋が壊滅しようと、ここだけは安全になっているし」
 構造上、とディアッカも頷いてみせる。
「本当に、このマンションの設計者はかなり凝り性ですよね」
 ニコルもそれに同意をして見せた。
「そのおかげで、遠慮なくピアノの練習が出来て嬉しいですけど」
 そう言って笑う彼に、アスランもまた苦笑を返す。
「でも、これではっきりしましたね。犯人はプラントの人間でも、カガリさんでもないと」
 キラの今の状況を知らないのだから、とニコルは言い切った。
「そうだな。と言うことは、キラのバイオリンが本当はどのように使われているのかも知らない、と言うことだ」
 と言うことは、とアスランはため息をつく。
「キラに思い出してもらわないといけないわけだ」
 キラが、ウズミ達の前でいつ演奏をしたかを……と彼は続ける。
「アスラン?」
「……音楽に関しては専門外だから、的はずれな考えかもしれないが……」
 そう前置きをして、アスランは言葉を重ねた。
「キラの演奏が、何かの鍵になっている可能性がある、と思っただけだ」
 もっとも、それが真実かどうかはわからないが……と付け加える。
「可能性は否定できません。人によって音が違いますし」
 それを何かの鍵にすることは不可能ではないだろう。ニコルが頷いて見せた。
「……そちらの可能性については、お前達に任せよう」
 パトリックが静かな声で口を挟んでくる。
「同じくらい、身辺に気をつけるように」
 おそらく、オーブの者達が帰るまで、同じようなことは繰り返されるだろう。彼は続けた。
 その瞬間、アスランの腕の中でキラの体が強ばる。
「心配しなくていい」
 それに気がついたのだろう。パトリックがきっぱりと言い切った。
「二度とこのような愚行は起こさせない。だから、不安に思わないように」
 ただ、少しだけセキュリティを厳しくさせてもらうが……と彼は続ける。
「それはしかたがないね、キラ」
 大丈夫。ここだけは何も代わらないから、とアスランは囁く。それにキラは小さく頷いて見せた。


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