二人でリビングに戻れば、ちょうどイザークがキッチンからお茶のセットを持っていくのが見えた。
 そんな彼に微笑みかけると、キラはエザリアに軽く頭を下げる。
「元気そうね、キラ君」
 あまりかたぐるしくしなくていいのよ、と彼女は付け加えた。そして、そのまま、キラを手招く。
 一瞬ためらったものの、キラは素直に彼女の方へと歩み寄った。
「大きくなったか?」
 そんなキラの頬にそっと触れながら、エザリアが問いかける。
「イザークやアスラン君に比べても、少し小さいような気がする」
 もっとも、あまり大ききなられてもかわいげがなくなるが……と彼女は笑った。
「ディアッカはいい子だが……かわいげはないからな」
 それに比べれば、イザークはもちろんアスランもかわいげがある。
 この言葉にはどう反応すればいいのだろうか。自分だけでは判断できずに視線だけで二人の顔を見つめる。だが、彼等もまた苦笑を浮かべているだけだ。これではあてにならない。
「まぁ、カリダとハルマさんの子供だから、そう大きくはならないのかな?」
 もっとも、コーディネイターにはそういうことは関係ないのかもしれないが、と彼女は苦笑と共に付け加えた。
 もし、自分がナチュラルだったら……と一瞬だけキラは心の中で呟く。
 しかし、そうだったなら、自分はアスラン達と一緒にいられなかったかもしれない。両親とアスラン達。どちらかだけを『選べ』と言われても、今でも出来そうにない。
「母上。キラが困っています」
 そんなことを考えているのがわかったのか。イザークがようやく助け船を出してくれた。
「……それは申し訳ないことをしたな」
 別にキラを困らせようとは思ってのことではないのだが、とエザリアは直ぐに謝罪の言葉を口にしてくる。だから、キラも静かに首を横に振って見せた。
「ともかく、座ってくれないか? 立っていられると、少し話しづらい」
 見上げるのは構わないが、やはり目線が同じくらいの方が嬉しい。その言葉にキラは首を縦に振って見せた。
 そのまま、彼女の隣に置かれた椅子に腰を下ろす。と言うよりも、手を握られていたせいで、そこにしか座れなかったのだ。
「とりあえず、キラ君が一番不安に思っていることを解決して上げましょう」
 だが、エザリアは意味があってそうしたらしい。
「イザークが見つけた公文書は、間違いなく正式なものです。あの文面を考えたのは、私とホムラ殿。そして、立会人はマルキオ師でした」
 それだからこそ、オーブとプラントだけではなく、実は地球連合の公文書館にも収められている。この言葉にキラだけではなくイザークやアスランも目を丸くしている。
「驚いたようだね」
 まぁ、それは当然だろう……とエザリアは微笑む。
「あちらも、まさかそこにあるとは思っていないだろう。だから、そちらが改ざんされる可能性は低いだろう」
 しかも、それに関してはマルキオが同席ししなければ引き出すことはもちろん、閲覧すら不可能なように手配されているのだ……と彼女は続けた。
「だから、こちらとしては正式にあちらの世迷い言を拒絶することにした」
 当面は、プラントとオーブにそれぞれ残されている公文書を盾にして、というのは当然のことだろう。
「もし、あちらがオーブにある公文書を改ざんしたときには、地球連合に収められている公文書の存在を明らかにすることになるだろうね」
 その時の反応が楽しみだ。そういって彼女は笑う。
「……エザリア様……」
「それでは、あちらを怒らせるだけではありませんか?」
 二人の意見に、キラも同意をしたい。しかし、彼女たちの配慮も嬉しいというのは事実だ。だが、ひょっとして、この日が来るのを予感していたのか、とそんなことも考えてしまう。
「大丈夫だろう。マルキオ様もおられるしな」
 彼の影響力はそれだけ大きい。
「確かに。それは否定できません」
 アスランもエザリアの言葉に頷いてみせる。キラもまた、マルキオの影響力に関しては疑っていない。
 それでも、と不安を感じてしまうのはどうしてなのだろうか。
キラの表情からそれを察したのだろう。 「せっかく淹れたお茶が冷める前に飲め」
 そして、少し気持ちを落ち着けろ……とイザークが声をかけてくる。
「そうだね。それがいい」
 珍しくもイザークがミルクティーを用意してくれたから、とアスランも微笑みかけてきた。
 確かに、イザークがそれを用意してくれるのは珍しい。
 だから、とキラはカップに手を伸ばす。それを合図にしたかのように他の者達も自分の前にあるカップを持ち上げた。
 口に含めば、優しい甘さが感じられる。
 それに、キラは知らず知らずのうちに微笑んでいた。


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