「……今日はあなたですか、エザリア様」 イザークと共に姿を現した女性に、アスランは思わずため息をついてしまった。 「いけなかったかな?」 そんな彼の態度に怒ることなく、彼女は微笑みと共にこう言い返してくる。 「そういうわけではありませんが……」 ただ、母とロミナ、それにエザリアと立て続けの訪問だったから……とアスランは言葉を返す。 「母上達は別々のおつもりでも、こちらは違う、と言うことですよ」 立て続けに来られては、何か示し合わせてのことではないのか。そう考えるものだ、とイザークも同意をしてみせる。 「そうは言うが、今日は久々にフリーの時間が取れただけなのだが」 だから、イザークとキラの様子を見に来ただけだ……と彼女は続けた。ここにアスラン達の名前が出てこなかったのは、彼女の中での優先順位のせいだろう。 それに関して、アスランは文句を言うつもりはない。 キラさえ気にかけてもらえるならいいのだ。自分のことは《ザラ》の名前が守ってくれるはずだし、と心の中で付け加える。 「……ラクス嬢からも頼まれたしな」 しかし、ぼそりと付け加えられた言葉に目を丸くした。 「ラクスが?」 「……イザークが公文書を見つけたが、この子の説明だけでは不十分ではないか、と言われたのだよ」 その言葉を自分がさらに裏付けすれば納得してもらえるのではないか。 エザリアが苦笑と共に付け加えた言葉に、イザークが少しだけ忌々しそうな表情を作る。 それは、自分の言葉だけではキラが信用してくれないと言うことに対してなのだろうか。それとも、ラクスがそう考えていると言うことなのか。 アスランにはよくわからない。 それに、本人に確認するわけにもいかないだろう。それを言えば、本人の機嫌がどれだけ悪化するかわかったものではない。 その結果、自分たちの間の空気が悪化すれば、それこそキラに悪影響を与えてしまうのではないか。 「そういえば、キラ君は?」 まだ眠っているの? とエザリアは問いかけてくる。 「いえ……ラクスに何かを頼まれたらしくてプログラムを作っています」 部屋で、とアスランは付け加えた。 実は、キラの腰が立たなくてそれしかできなかった、と言うのが本当だ。だが、流石にエザリアの前でそれを口にする勇気はない。自分たちの関係が半ば公認だとしても、だ。 「呼んできますか?」 そろそろ、動けるようになっているはず。そう考えてアスランはこう問いかける。 「そうしてくれるかな? あぁ、イザーク。お茶を淹れてくれますか?」 一服をしたい。己の母の言葉にイザークは頷いて見せた。 「アスラン?」 「俺はコーヒーを淹れたばかりだから構わない。キラには……ミルクティーにしてやってくれるか?」 甘い方が今日のキラにはいいのではないか。そう判断をして、アスランは告げる。 「わかった」 普段は、そういう飲み方は邪道だ、と言い出しかねない彼も、キラが相手では違うらしい。あっさりと頷いてみせる。 それを確認してから、アスランはキラがいる寝室へと足を向けた。その背後で、イザークがキッチンへと向かう気配が伝わってくる。 「キラ」 静かに声をかけながらドアを開けた。 次の瞬間、怒りを含んだ視線がアスランに向けられる。どうやら、夕べ無体を強いられたことをまだ怒っているらしい。 「エザリア様がおいでだけど……顔を出せるか?」 そんな彼に苦笑と共にこう問いかける。 彼の言葉に、キラは首をかしげて見せた。何故、彼女がここにいるのか、と思ったらしい。 「ラクスが、公文書のことをエザリア様に相談したらしい」 それで、キラの顔を見がてら説明をしにくてくださったのだ、とアスランは続ける。 「あの方は、現在、最高評議会で法律部門を担当しておられるからな」 その説明なら、キラも信用できるだろう? と告げればキラは頷いて見せた。 「まぁ、単純にキラの顔が見たかっただけかもしれないが」 苦笑と共にアスランはこう付け加えながら、ゆっくりと歩み寄る。 「立てるか?」 そのまま、耳元でこう囁く。その瞬間、キラの顔が真っ赤に染まる。そして、アスランが伸ばした手に、思い切り爪を立ててきた。 「痛いよ」 こう言い返しながらもアスランは笑う。そして、キラが立ち上がるのを手助けしてやった。 |