食事の時も、キラはどこか心ここにあらず、と言う様子だった。二人になれば、その様子はさらに顕著になる。
 このままでは、寝ることも忘れてしまうのではないか。
「……キラ」
 ともかく、彼の意識を現実に戻そう。そう思って声をかける。
 しかし、いつもは直ぐに振り返ってくれるのに、今日は何の反応がない。
「キラ……いい加減にしないと、キスをするよ?」
 一番手っ取り早いのはそれかな、と思ったわけではない。だが、ついついそんなことを言ってしまった。それでも、彼は視線をアスランへと向けずに考え込んでいる。まるで、キラの周囲の時間だけが凍り付いてしまったようだ。
 そんな彼の様子を、前に一度見たことがある。
 プラントに来て直ぐの頃だ。
 あのころと同じ光景を見たくはない。
 だから、とアスランは強引にでもキラの意識を現実に引き戻すための行動を取ることにした。
 わざと足音を立ててキラの側に歩み寄っていく。それでも、彼は視線を向けてはくれない。
「キスするって言ったからな」
 無視をしたキラが悪い。そう告げると同時に、アスランは彼の頬に触れる。そして、少し強引に自分の方へ顔を向けた。
 アスラン? と彼の唇が自分の名前を綴る。
 ようやく、アスランの存在を認識したらしい。だが、それだけでは不十分だ。
 そんなことを考えながら、噛みつくようなキスを贈る。
 反射的にキラの指先がアスランの服を握りしめた。
 だが、口づけを深くすればするだけその指からは力が抜けていく。
 さりげなく、彼の腰に手を回す、その体を支えた。
「キラ……」
 もう十分だろう。そう判断をして口づけを解く。その時にはもう、お互いの体に熱が孕んでいた。
「何を、考えていたんだ?」
 その熱をちらしながら、アスランは問いかける。もっとも、その間にもキラの体の熱を煽っていくことは忘れていない。
 そんな彼の行為の意図がわからないのだろう。キラが不安そうにアスランを見上げてきた。
「キラが俺を無視したのが悪い」
 そんな彼に向かって、アスランはこう囁く。
「あのことが気になる、とわかっているけどね」
 でも、とアスランはさりげなくキラの服の下に手を滑り込ませながら続けた。
「ようやく二人だけになれたのに。それって酷いとは思わないか?」
 これが自分勝手な意見だとはわかっている。
 それでも、ようやく二人だけでゆっくり出来る時間になったのだ。だから、少しは自分のことも考えて欲しい。
「確かに、優先しなければいけないことが他にある、というのはわかっている。でも、少しは俺のことを気にかけてくれてもよくはないか?」
 キラの耳元でそう囁く。
 それに、キラが困ったような表情を浮かべたのがわかった。
 だが、直ぐに彼は背筋を伸ばすと、アスランの唇にふれるだけのキスをしかけてくる。
「キラ?」
 それが、自分の言葉を真摯に受け止めた結果の行動だ、と言うことは想像がつく。しかし、それがもたらす結果を彼はわかっているのだろうか。
 彼は彼の方で、自分の行為が恥ずかしくなったのだろう。頬を赤らめている。
「そんなことをして……煽ってる?」
 それとも、自分がして欲しいの? とその耳元で囁いてみた。
 次の瞬間、アスランの腕の中でキラの体が強ばる。だが、触れあった場所から伝わってくる彼の鼓動が早くなっているのがわかった。
「キラがいやなら、やめるよ?」
 どうする? と問いかける自分が卑怯だと言うことは自覚している。それでも、とアスランは彼に選択権を与えた。
 その間にもキラの体に刺激を与えることはやめない。
 アスランのその行動に、キラは恨めしそうな視線を向けてくる。だが、それが直ぐに快感にかき消された。
「キラ?」
 どうする? とアスランはまた問いかける。
 それに答えを返すように、キラの腕がアスランの首筋に回させた。
「いいこだね、キラ」
 その体を抱き上げる。そして、そのままベッドルームへ足を向けた。


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最遊釈厄伝