ロミナの突然の訪問に、ニコルも驚いたようだった。
「母さん、どうして……」
 目を丸くしながらこう問いかけてくる。
「今度のお茶会で、どのケーキを出そうか。キラ君に決めて貰おうと思ったの」
 今日はラクスがこちらに来ていると聞いたから……と彼女は微笑みながら口にした。
「ラクスさんもその時に同席してくれることになっていたのよ」
 だから、彼女の意見も聞けるでしょう? とさらに続ける。
「でも、どうやってここに入ったんですか?」
「決まっているじゃない。キラ君に連絡を入れて開けて貰ったのよ」
 メールを送って、許可を貰って……とロミナは微笑む。
「……キラ?」
 本当なのか? とアスランは問いかける。そうすれば、彼は小さく頷いて見せた。
「まぁ……お前はおばさま方に可愛がられていたけどな」
 キラも懐いていたから、と思いつつも、何か釈然としない。
 彼の面倒を見るのは自分だ、と思っていたのに……彼にしてみれば他の人の手でもいいのだろうか。ふっとそんなことを考えてしまったのだ。
 そんな彼の服の袖を、キラの指が掴む。
「何でもないよ、キラ。ただ、そういう手段があったのか……と思っただけ」
 レノアはともかく、他の方々も同じような手段を使って押しかけてきそうだな……とそう考えたのだ。言い訳のようにこう告げる。
 しかし、キラは「本当なのか?」というようにアスランの瞳をのぞき込んでいた。
「これがばれたら、キラの端末には希望メールが殺到してくるかな、と思っただけだよ」
 レノアの場合、また、あの惨状が待っているのだろうか。そう考えれば頭が痛い。この言葉で、先日の惨状を思い出したのだろう。キラもまた苦笑を浮かべた。
「そういうことだ」
 もっとも、あれだけの惨状を作り出せるのは自分の母だけかもしれないが。
「……あら。そんなに酷かったの?」
 くすくすと笑いながら、ロミナが問いかけてくる。
「片づけるのに、二時間ぐらいかかりました」
 もっとも、それは表面だけで、まだ手がかけられていない部分もある。アスランは正直にこう告げた。
「相変わらずね、レノアも」
 苦笑と共にロミナはそう口にする。
「彼女に少しでも料理をたたき込んだカリダには感心するわ」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは目を丸くした。
「知らなかった? レノアに料理を教えたのはカリダよ。もっとも、あの性格だから、どうしても後始末までは身に付かなかったみたい」
 細胞をいじるような細かい作業はあんなに見事に出来るのにね、と彼女が口にした瞬間、キラの視線がアスランへと向けられる。
「確かに。そういうところはそっくりですね、アスランと」
 納得です、とニコルが頷く。
「確かに。否定は出来ないな」
 それにイザークまでもが頷いてみせる。
「まぁ……誰でも欠点の一つや二つ、あるもんだって」
 ディアッカが最後にこうしめた。
「……好きに言っていろ……」
 ため息とともにアスランはこう言い返す。
「それよりも、キラ。お茶が冷めるぞ?」
 せっかく、イザークが淹れてくれたんだからおいしいうちに飲め……と声をかける。それが話題を転換するためだと言うことは彼にもわかっていただろう。だが、キラは素直に首を縦に振って見せた。
「そうそう。どれがおいしいか。ちゃんと感想を教えて貰わないと」
 新作もあるから、とロミナも口にする。
「母さん……いくらなんでも、多すぎです」
 せめて、もう少し数を絞ってから来ればいいのに、とニコルがため息をつく。
「あら。男の子が五人もいるんだもの。食べきれるでしょう?」
 そういう問題ではないと思うのだが、とアスランはため息をつく。そもそも、甘い物が好きな男の子はそういないと思う。
 もっとも、例外が二名ほどいるこの場では反論をすることは出来ないが。
「……今日の夕食は軽めの方がいいな」
 ため息とともに、そう告げるしかできないアスランだった。


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