本来ならば、部屋に戻ってからあれこれした方がいいのだろう。それはわかっているが、まだキラの耳に入れたくない。 そう判断をして、アスラン達はパトリックが使っているオフィスの一つへと集まっていた。 「……メモリー、な」 アスラン達の話を聞いて、面白そうだ、と笑ったのはディアッカだ。だが、イザークの方は微妙に考え込むような表情を作っている。 「イザーク?」 どうかしたのか、とアスランは問いかけた。 「それがトラップの可能性は?」 そうすれば、即座にこう聞き返される。どうやら、彼もハルマのイタズラ好きの性格を覚えていたらしい。 「五分五分、と言ったところだろうな」 もっとも、トラップとは言ってもそれなりに有効な内容ではあるだろう。アスランはそう付け加える。 「キラを守るためのトラップなら、その可能性が高い」 この言葉に、他の三人も頷いて見せた。 「とりあえず、これに関してはキラと話をしてから、中を確認すべきだろう」 一部とはいえ、取り出すためにはケースを壊さなければいけない。それがキラの精神状態にはマイナスになる可能性もある。 「わかっている」 「そうそう。キラが最優先だって」 キラが拒んだときには、また別の方法を考えればいいだけだよな、とディアッカは付け加えた。 「その方法がないか、父に相談しておきます」 即座にニコルがこんな言葉を口にする。 「その時は頼む」 だが、今はそれを検討するときではないだろう。キラだって、中身を知りたいと思うのではないか。アスランはそう考えていた。 「……イザーク達の方は、何か収穫があったのか?」 だから、と彼等に話題を振る。 「あぁ。と言っても、まだ完全に分析は終わってねぇぞ」 量が多すぎて必要と思われることを抜き出すだけで精一杯だった。そうディアッカは口にする。 「ただ、さ……あの事件が起きた少し前あたりから、ウズミ・ナラ・アスハの体調不良が目立った、って言うのは事実だ」 式典の最中に倒れることもあったらしい。彼はそう続ける。 「ついでに言うと……セイランと一緒に参加しているときにその傾向が高かったぞ」 正確なデーターはこれから整理をするが、とディアッカは笑った。 「……それだけでも十分ですね、当面は」 誰に注意を払えばいいのか。その見当が付く。ニコルはそういって意味ありげな笑みを浮かべる。それが要注意の合図だと言うことはアスラン達にはわかっていた。もっとも、その対象が自分ではないから構わないか。そう考えていたことも否定しない。 「イザークの方は、何かわかったのですか?」 それとも、二人が我利で調べた内容がこれか……とニコルは視線を移動させる。 「オーブの法律上でも、このバイオリンはキラのものだ、と言うことぐらいか?」 データーベースを当たったら、公文書として残っていた。イザークはそう口にする。 「本当ですか?」 レノア達がきちんと対処をしてくれたことは疑っていなかった。 そうしなければ、キラの権利がどれだけ制限されたことか。いや、それ以上に、彼が手にすべき財産すらも奪われたかもしれないのだ。 しかし、それが公文書として残っているとは思わなかった。 「キラの代理人はザラ閣下だ。あいつの現在の後見人があの人だから当然のことだろう」 そして、とイザークは付け加える。 「それに同意をしたのがウズミ・ナラ・アスハだ」 さらに彼はこう言葉を重ねた。 「ひょっとしたら、プラントのデーターベースにも同じ文章が残っているかもしれない」 それに関しては明日調べてみるが、と彼は続ける。 「……内容の照合はどうするんだ?」 文章が書き換えられている可能性もあるだろう? とアスランは問いかけた。 「ハードコピーを取ってきた。それに、改変は無理だと思うぞ」 紙に書かれた文章に手書きでサインが入れられている。それをスキャンしたものがデーターベースになっているのだ。イザークはそう説明をする。 「用紙自体に改変できないような工夫がしてあったようだ」 そういいながら、彼は鞄の中からファイルを取り出す。そして、アスラン達の前へと差し出してきた。 そこに収められた紙には文字の他に、何やら意味のわからない模様がプリントアウトされている。それはきっと、プリントアウトしたものを使って改変しようとしても不可能になるようにと言う配慮からだろう。 「問題は、原本だが……」 データーベースに収められているものとの差違が見つかったら、それこそ大事になるのではないか。 まして、サインをしているのが、国家の代表とも言える者達だ。最悪、開戦の口実になりかねないことぐらいはあちらにもわかっているはず。 「だが、これの存在をあちらが知らないとは思えない」 それでも言いがかりに等しいことをしてきたのはどうしてか。それを調べる必要があるのではないか。 「……それが一番難しいことだろうが……やらないわけにはいかないんだよな」 キラのために。 アスランの言葉に、誰もが頷いて見せた。 |