温もりを求めるように、アスランの胸へと体をすり寄せる。そうすれば、彼は笑いながら、そっと抱きしめてくれた。 「今日はずいぶんと甘えん坊だな、キラは」 そのまま、そっと額にキスを落としてくる。 そんな些細な仕草にも安堵を感じてしまう自分がいることにキラは気付いていた。 と言うよりも、彼の存在そのものが自分にとっては無条件で安心できるものなのかもしれない。 だが、それを言うなら、他の幼なじみ達だって同じ事だ。 なのに、どうしてアスランだけが特別なのだろう。 確かに、一番最初に仲良くなったのは彼だ。そして、一番時間を共有しているのも。だが、それだけではないような気もする。 「キラ?」 あれこれ考えて首をひねっていたからか。アスランが不審そうに問いかけてくる。そんな彼に向かって、キラは曖昧な笑みを返した。 「いろいろありすぎたのはわかるけど……眠らないと、な?」 でないと、明日も大変だぞ? と彼は続ける。 「あの様子だと、ニコルもまた押しかけてくるだろうし……イザークとディアッカも顔を出すだろうな」 ニコルはともかく、残りの二人はカレッジをどうするつもりなのか。アスランはわざとらしいため息をつく。 それにキラは思いきり顔をしかめてしまった。 ここから出ることが出来ない自分は、とりあえず自宅学習という形で勉強をしている。もっとも、専門のプログラミングについては既に卒業認定に足りるだけの単位を習得しているから、他の一般教養だけ、集に数時間学習すればいい。 だが、ディアッカもイザークもそうではない。 彼等は――アスランも――その他に、将来、プラントを背負って立つための勉強も行っている。だから、自分と比べてめちゃくちゃ忙しいはずなのだ。 なのに、自分のせいで時間を無駄に使わせているような気がする。 彼等の気持ちに甘えてはいけないのに。心の中でそう呟いたときだ。 「キラ」 ため息とともにアスランが彼の名前を呼ぶ。 「また、余計なことを考えているだろう、お前は」 言葉とともに、彼の指先がキラの額を軽くはじく。 「俺たちがお前のために使う時間は、俺たちにとって必要なものだ。そして、それは父上達も認めている」 それどころか、絶対に応援しているはずだ。出なければ、こうしてラクス以外の者達を一カ所で暮らせるようにさせるはずがないだろう? と彼は続けた。 「このマンションだって、半分以上はそのために建てられたものだろうしな」 残りは優秀な学生への援助なのだろう。 それは彼等にとっては当然の義務だから、気にしなくていい。そうもアスランは付け加える。 しかし、どうしてそこまでしてくれるのか。キラにはそれがわからない。 「決まっているだろう、キラ」 小さな笑いと共に、アスランは言葉を口にした。 「みんな、キラのことが好きだから、だよ」 もっとも、その《好き》の意味は違うだろうが。それでも、キラを守りたいという気持ちには代わりがない。 「そんな俺たちの気持ちは、お前にとって負担か?」 この問いかけは卑怯だ。キラは心の中でそう呟く。 こう言われてしまったら、自分が取れる反応は一つしかない。 そう考えながら、キラは静かに首を横に振って見せた。 「だから、気にするな。俺たちは自分たちがやりたいから勝手に動いているだけだ」 そして、現在、プラントの中枢を担っている自分たちも親も、それを望んでいる。 「お前一人を守れなくて、他の者達を守れるはずがないだろう?」 だから、余計なことを考えるな。さらに彼はそう付け加えた。 「わかったら、寝ろ」 それとも、吐息なり彼は表情を変える。 「眠れるようにして欲しいか?」 何も考えられないくらい疲れたいというなら、お望み通りにしてやってもいいんだぞ……と低い笑いを漏らす。 その言葉の意味が直ぐには理解できない。 「明日、朝が早いから今晩は我慢しようと思っていたんだけどな」 だが、ここまで言われればその意味がわからないはずがない。 普段なら、その手にすがっていただろう。しかし、明日は朝からアスラン達は出かけることになっている。そう考えれば、あまり彼にも無理はして欲しくない。 そう思ってキラは首を横に振る。 「ちょっと残念、かな」 どこまで本気なのかわからない口調で彼はそう囁く。それにキラは思わず目を丸くしてしまう。 「冗談だよ」 だから寝よう? と彼はキラの体をそっと抱きかかえ治した。そのまま、そっと彼の背中を叩いてくれる。 そのリズムに導かれるように、キラは静かに目を閉じた。 |