誰もが、テーブルの上に無造作に置かれた封筒を気にしている。しかし、それを態度に出さないあたり、流石だ……と言うべきか。
 もっとも、キラにはわかっているだろう。
 それでも何の反応も見せない、と言うことは、この状況をありがたいと考えているからではないか。
 きっと、まだ、キラの決意がまだ、固まっていないのだろう。いや、決意というより覚悟、だろうか。
 だから、それが出来るまで待つくらいのこと吐くではない。
 それに、とアスランは心の中で呟く。
 キラがためらっている理由もわかるから、とそうも続ける。
 他の四人も、それに関しては同じ気持ちのはずだ。
「……そういえば……」
 それでも沈黙に耐えられなくなったのだろう。ニコルが口を開く。
「この前お渡しした本は読んで頂けましたか?」
 アスラン、と彼は笑みを向けてくる。
「……一応、な」
 それが何を意味しているのかわかって、アスランはため息をつきながら答えを返した。
「だが、意味がわからない所がある」
 実際に手を動かしてみればいいのかもしれないが、そもそも、うちには楽器がない。そうも付け加えた。
「それなら、一応、手配はしてありますよ」
 練習用の安いのですが、とニコルが笑い返してくる。
「……それは、ありがとう……と言うべきなのか?」
 口実ではなかったのか、とアスランは言外に問いかけた。
「頑張ってください」
 しかし、ニコルは笑みをさらに深めるとこう言い切る。
「応援しますわ」
 さらに、ラクスが微笑みと共に言葉を口にした。
「そうすれば、キラやわたくしたちの気持ちが少しは理解して頂けるかもしれませんもの」
 キラもそうすれば、アスランにあれこれ頼みやすいだろうし。そう彼女は続ける。
「できれば、あまり耳障りな音は出さないで欲しいが、な」
 キラのバイオリンやニコルのピアノであれば、単純な基礎練習であっても聞いていて心地よいが……とイザークが口にした。
「……なら、止めるという選択を取ればいいだろう?」
 自分が楽器を習うことに、と本気でため息をついてしまう。
「まぁ、何事も経験だって」
 応援しているのか。ディアッカがこの言葉とともにアスランの肩を叩いてくる。
「……それは否定しないが、な」
 しかし、自分に音楽的な才能があるとは思えない。だから、とアスランはため息をつく。
 だが、そんな自分たちの会話がキラの心を和らげたのか。あるいは、彼の決意を促したのかもしれない。
「キラ?」
 彼が封筒へと手を伸ばすのが見えた。
 同時に『大丈夫だろうか』と不安になってしまう。
 もちろん、キラが決めたことだ。決して邪魔をしてはいけないことはわかっている。
 それでも、普段の彼を見ていると、どうしても不安になってしまうのだ。それはキラの精神状態だけではない。自分が彼を支えきれるかどうか。そのことも含まれている。
 だが、今は一人ではない。
 幼なじみ達のフォローを期待しても構わないだろう。
 もっとも、それはそれで悔しいというのも本音だ。
 そう考えているアスランの前で、キラが封を切った。
 彼の指が中から慎重に便せんを引っ張り出す。それも特別製なのか。アスハの紋章がすかしで入れられている。
 つまり、これは非公式ではあるが正式なものだ、と言うことなのか。
 そんなことを考えている間に、キラは中に書かれてある内容に目を通したようだ。しかし、その表情が強ばっている。
「どうした、キラ」
 何か厄介なことでも書かれているのか? と問いかけた。それに彼はアスランの方へ便せんを差し出してくる。ためらうことなくそれを受け取ると、アスランもざっと中身に目を通す。
 次の瞬間、自分の表情が強ばっていくのを、アスランは感じていた。


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