朝食の後かたづけも終わったところで、キラがいきなり立ち上がる。
「キラ?」
 どうしたのか、とラクスが問いかけた。しかし、それに彼は一瞬振り向いただけだった。
 そのまま、彼は寝室へと姿を消した。
「……手紙、か」
 寝室のサイドテーブルの上にそれは置いてある。キラはそれを取りに行ったのではないか。
「もう少し後にしてもいいのに」
 本当に妙なところできまじめで頑固なんだよな、キラは……とため息をつく。
「ひょっとして、さっさと済ませてしまえば、それだけ僕らの負担を減らせると考えているとか?」
 ニコルが不安そうに問いかけてくる。
「あるいは、さっさと仕事に行け、と言いたいのかもしれないぞ」
 主に、ニコルとラクスに大してだろうが……とイザークが口を挟んできた。
「わたくしたちだけ、ですか?」
 不満そうにラクスが言い返す。
「俺たちはカレッジが休みですから。アスランもそうだろう?」
 ディアッカがこう言いながら視線を向けてくる。
「あぁ。それはキラも知っている」
 だから、遠慮なく呼び出したんだが……とアスランは頷いて見せた。
「だが、確かニコル達は近いうちにコンサートの予定が入っていたのではないか?」
 そのまま、視線をニコル達に向ける。
「まぁ……コンサートというのでしょうか」
「オーブの皆様の歓迎会での演奏ですわね」
 とりあえず、ラクスの伴奏をニコルがすることになっているのだ。そういって彼女は微笑む。
「ですが、そんなに難しく考えなくてもよろしいのですわ」
 そんなこと、いつもやっていることだろう。ラクスの言葉に、ニコルも頷いてみせる。
「そうですね。ここでいつもやっていることです」
 むしろ、自分たちに気を遣わないですむだけ、楽かもしれない。その言葉にアスランは思わず首をひねってしまった。
「……最高評議会議員の前で演奏する方が、俺たちの前でするよりも気楽だ、と?」
 イザークも信じられないというように問いかけている。
「あなた方ではなく、キラさん、です」
 ニコルはこう言って笑う。
「アスランは最初から問題外ですが、イザークもディアッカも、多少ミスタッチをしても気付かないですから」
 本当は、しないのが一番いいのだが。ニコルはこうも付け加える。
「そうですわね。他の皆様なら――本来は許されないかもしれませんけど――ごまかせますが、キラの耳だけはごまかせません」
 それ以上に、キラの評価が怖い。
 微笑みと共にそういう彼女に、アスランは言葉を返すことも出来なかった。
「……遅いな、キラ」
 代わりにこう言って腰を上げる。
「見つからないとか?」
「まさか」
 ディアッカの言葉をアスランは即座に切り捨てた。
「大切なものだからな。なくさないように、きちんと管理していた」
 実際、起きたときにはそこにあったのだ。そう付け加える。
「あるいは、まだキラの決意が固まっていないだけかもしれませんわ」
 自分の気持ちを落ち着かせる時間を必要としているのかもしれない。ラクスがそう告げる。
「そうですね。でも……流石に少し心配です」
 ニコルがこう言って眉根を寄せた。
「見てくるよ」
 これ以上ここにいては、何を言われるかわからない。その前に行動をする方がいいだろう。
 そう判断をして、アスランはキラの後を追いかけた。


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