「ニコルは意地でも駆けつけてくるだろう、とは思っていたけどな」 ついでに、イザークとディアッカのどちらかは必ず顔を出すだろうとも……とアスランは付け加える。 「まさか、全員が顔を出すとは思わなかったよ」 しかも、こんな時間から……とため息をついたのは、これから朝食にしようと思っていたからだ。 「お前が『来い』ってメールを寄越したんだろうが!」 偉そうに椅子にふんぞり返りながら、イザークがこう言ってくる。 「……時間の指定をしたはずだが?」 それは、もっと遅い時間だっただろう。アスランはそう言い返す。 「まぁ、そうなんだけどな」 でも、とディアッカは笑う。 「どうせなら、誰かが作ってくれた朝飯って言うのを食いたいし」 キラを構いたい。そうも彼は続けた。 「心配するなって。コーヒーぐらいなら俺が入れるし、紅茶がいいなら、イザークが淹れてくれるらしいからな」 「当然だ。他人が淹れたまずい茶を飲むくらいなら、自分で淹れる!」 別に威張ることではないだろう。 しかし、それを指摘すると、絶対にケンカになる。 朝からそんなことをしてキラの精神に悪影響を与えたくない。アスランはそう考えて必死に我慢をする。 「わかっているって、キラ」 いったいいつの間に寝室から出てきていたのだろう。キラがアスランの背後から二人を見つめていた。 その眼差しが何かを伝えようとしていることに、気付いたのか。 「アスランが淹れた紅茶もうまいんだろう?」 でも、イザークは完璧主義だから、我慢してやってくれ。そう彼は続ける。 「……まぁ、忙しいときになら、アスランの淹れた紅茶を飲んでやってもいい」 珍しいことに、イザークもその言葉を否定しない。 やはり、キラの前ではみんなの態度が変わるな。それはきっと、キラの精神状態を気遣っているから、だろう。 もっとも、本人はそれを『みんなに気を遣わせてしまっている』と感じてしまうのだ。 せめて、この考えだけは何とか訂正しないと……と思う。 「……ところで、ラクス」 ともかく、話題を変えよう。そう考えて、アスランは視線を優雅な微笑みを浮かべながらソファーに座っている彼女へと移動させた。 「いったい、どこからおいでになりました?」 ニコルの部屋からだろうか。それとも、他の二人の所からか。それならば構わないが、他の誰かに見つかったらうるさいだろう。そんなことを考えて問いかける。 「もちろん、玄関から、ですわ」 満面の笑みと共に彼女は言い切った。 「玄関?」 どこの、とアスランは心の中で呟く。 そんな彼の隣で、キラが不安そうに自室の玄関へと視線を向けた。 「えぇ、そうですわ、キラ」 微笑みと共にラクスは頷いてみせる。 「そこから入らせて頂きました」 だが、ここにはカードキーを持っているものしか入れないはず――両親はもちろん持っている。彼等は自分たちの自主性を重んじてくれているから、緊急事態でもなければ勝手に入ってくるとことはないはず――そして、自分たちは彼女にそれを与えた覚えはない。 なのに、何故……とアスランは顔をしかめた。 「パトリック様が、万が一の時のためにとおっしゃって、カードキーをくださいましたの」 さらりと付け加えられたこのセリフに、思わず怒りがわいてくる。 「……父上……」 後で覚えていてくださいよ、とアスランは呟く。 そんな彼をキラが不安そうな表情で見上げてきた。 「大丈夫。せいぜい、母上に今回のことを愚痴るだけだから」 それだけで十分だろう。心の中でそう付け加える。そうすれば、きっと、レノアがきっちりとしめてくれるに決まっている。 パトリックにはそれが一番聞くはずだ。 「アスラン」 キラにそう説明をしていたときだ。 「申し訳ありませんが、そろそろお腹が空いてきましたわ」 できれば、朝食を食べさせてもらえれば嬉しいのだが。そうラクスは言ってくる。それだけならば無視できただろう。しかし、それにキラのお腹が同意をしてしまう。 「……わかりました。ディアッカ、せめて手伝え」 「何で俺……」 しかも名指し、と彼は目を丸くしている。 「イザークに料理をさせるのか?」 それともニコルに、と付け加えれば、納得したらしい。 「はいはい。わかったよ」 言葉とともに立ち上がる。 「キラ。ニコル達に構ってもらえ」 そのまま、アスランの方へと歩み寄ってきた。ついでとばかりに、キラの背中を彼等の方へと押す。 「大丈夫だ」 いいのか、と言うようにキラが視線で問いかけてくる。それにアスランは微笑みと共に頷いて見せた。 |