キラが眠ったのを確認してから、アスランはそっと端末へと手を伸ばす。そして、仲間達に明日のことを簡潔にメールをした。
 後は、自分の判断でどうするか決めるだろう。
「その方が早いだろうしな」
 朝、ばたばたするよりはましだろうし。だが、安眠を邪魔することになるのだろうか。
「……そこまでは、責任が取れないな」
 取る予定もないし、と呟きながら手早く文章を打ち込んでいく。
「十時ぐらいなら、大丈夫か?」
 集まれる人間だけ集まってくれればいい。
 来られなかった人間は、諦めて貰おう。
 そんなことを心の中で付け加えながら、送信をする。
 まるでそれを待っていたかのように、キラの手がアスランを捜すかのように彷徨い始めた。
「ここにいるよ」
 そんな彼の手に自分のそれを重ねる。
「俺は、絶対にお前から離れないから」
 だから、心配をしなくていい。そっと身をかがめるとキラの耳元でこう囁く。
 それに安心したのか。キラの手がそっと下に落ちた。
 彼のそんな仕草に苦笑を浮かべつつ、アスランは端末を元の場所へと戻す。そして、そのまままたシーツの上に体を横たえる。
 そのまま、目を閉じるがなかなか眠りは訪れない。
 キラではないが、自分もあの手紙に書かれている内容が気にかかっているのだろう。いや、自分だけではなく、現在、プラントを動かしている者達――もちろん、その中にはパトリックも含まれている――もだ。
 しかし、ひょっとしたらレノアは何かを知っているのかもしれない。
 だから、あんな意味ありげなセリフを自分に残していったのだろうか。
 それとも、他の意図があるのか……とアスランは心の中で呟く。だが、いくら考えても答えを見つけられそうにない。
「……キラが使っているバイオリンの工房は……亡くなった娘のために作り始めたのが最初だ、と言っておられたな」
 きっと、これが何かのヒントなのだろう。
 それが何に関するヒントなのか、それがわからないのだ。
「ニコルなら、わかるのか?」
 あるいは、ラクスだろうか。あの二人であれば、そのあたりの情報を持っていそうな気がする。
「明日、彼等が来てから、でもいいか」
 間違いなく、イザーク達は顔を出してくれるだろう。キラのことを彼等に任せて、自分は二人に相談すればいいのではないか。
 二人が情報を持っていなかったとしても、彼等であれば調べる方法があるのではないか。
 あの二人は、今でもオーブを含めた地球にすむ人々との個人的なパイプがある。だから、そちらから手を回してもらえるかもしれない。
 それがうらやましくないと言えば、嘘になるだろう。
 だが、自分には自分にしかできないことがある。適材適所だと考えればいいのではないか。
 まるでそれに同意をするかのようにとキラがアスランの胸に頬をすり寄せてくる。
「キラ」
 その仕草に、アスランの口元に自然に微笑みが浮かんできた。
「愛してる」
 だから、全力でキラを支える。それは自分にしかできないことだ。
 それで十分だろう。それ以上を望んでどうするというのか。
 キラさえ側にいてくれれば、それでいい。
「だから、ずっと側にいてくれ」
 自分の側に、とその思いのまま囁く。
 ただの偶然かもしれない。だが、それに答えるかのように、キラの手がアスランのパジャマをしっかりと握りしめてきた。
 それに、アスランの胸の中が温かくなる。
 同時に、彼の上に眠りの翼が舞い降りてきた。
 今度は、素直にそれに身を任せる。腕の中にある温もりがそれを加速させているのだろうか。アスランの意識はあっさりと闇の中へと吸い込まれていった。

 翌朝、メールを確認したアスランが、別の意味で苦笑を浮かべたのは否定できない事実だった。


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最遊釈厄伝