することもなく、ぼうっと、ソファーの上から中庭を眺めていた。 そこには、四季にあわせて姿を変える一本の桜が存在している。まだ、花の時期ではない。しかし、その時期にどれだけ見事な花を咲かせるか、キラはよく知っていた。 それは、レノアが母のために交配してくれた品種だ。人工的な環境の中でも、必ず花をつける品種。しかも、さほど背が高くならないという。だから、小さな庭でも十分に育てられると聞いた。 月の家にも、同じ品種が植えられていたことを忘れていない。 その他にも、中庭にはあのころよく目にしていた花が植えられている。それもレノアの気遣いなのだろうか。 そんなことを考えながらそっと手を差し出す。 その手の中に、ハロが飛び込んできた。 滑らかな手触りのそれを抱きしめる。そして、そのまま、何事かを語りかけるかのように、指先でリズムを刻む。 それに反応をするかのように、ハロの目が光った。 そのまま、今度はキラの手から飛び出すとハロは中庭の方へと転がっていく。自分でドアを開けると、そのまま芝生の上へと出て行った。 本当は、自分ででられればいいのだけれど……とキラは心の中で呟く。しかし、まだ一人で出られるほど自分は強くなれない。 でも、誰かが一緒なら……と考えて、キラは苦笑を浮かべる。結局、自分はみんなに甘えているだけなのか。 みんな――アスランをこんなに頼りにしてしまう自分の弱さを克服できなければ、きっと、前には進めない。 それはわかっていても、どうしてもそうできないのだ。 きっとそれはここがとても心地よいからだろう。 両親がいた頃の家とは違う。だが、同じような優しい空気に満たされているから。そんなことを考えていたときだ。 「どうした、キラ」 寂しくなったのか? といいながら、イザークが中庭から顔を出す。 「まぁ、昼時だし……どうせなら、みんなで飯を食った方がうまいよな」 さらに、ディアッカまでもがこう言いながら入ってくる。 「アスランのことだ。キラの分ぐらいは用意しているだろうけど、な」 でも、どうせなら、温かいのを食べたいよな……と彼は笑いかけてきた。 それにどう反応をすればいいのだろうか。そこまで付き合ってもらう予定ではなかったのだ。ただ、中庭で一緒にお茶でも、と考えていただけなのに……とキラは焦る。 「気にするなって。どうせなら、中庭で食べるか」 まだ少し肌寒いかもしれないが、それでもたまには気分が変わっていいだろう。そういってくれたのはイザークだ。 「そうそう。どうしても気になるって言うなら、食後に一曲弾いてくれればいいって」 それで十分おつりが来る。ディアッカはそうも付け加えた。 「そうだな。俺たちの好きな曲を一曲ずつでどうだ?」 キラが弾いてくれるなら、紅茶は自分が淹れよう。イザークもこう告げる。 はっきり言って、彼が自分からそんなことを言い出すのは珍しい。しかし、イザークが淹れてくれる紅茶は、ものすごくおいしいのだ。 だから、それにつられてしまったのかもしれない。ついつい、キラは頷いてみせる。 「了解。と言うことで、めしを作るか」 その間に、中庭の方の準備を頼むな……といいながら、ディアッカはキラの頭にぽんと手を置いた。 「イザークが一緒だから、大丈夫だろう?」 不安なら、くっついていろ……と彼は続ける。 「そうだな。たまには直接、外の風に当たらないとな」 言葉とともに、イザークはキラの肩を抱くようにして自分の方へと引き寄せた。 「と言うことで、行くぞ」 そのまま、彼は歩き出す。 状況に思考が付いていかずにキラは呆然とした表情を作ってしまう。 「キラ、ダイジョウブ。キラ、ダイジョウブ?」 引きずられるように連れて行かれるキラを心配したのか。ハロがこう問いかけてきた。 「大丈夫だって。俺たちがキラを傷つけるわけないだろう?」 それよりも、お前も一緒に行ってひなたぼっこしてこい……とディアッカは笑う。 「ついでに、アスランをうらやましがらせられるようなデーターを集めておけ」 さらに彼はこうも付け加えた。 「ワカッタ、ワカッタ」 マカセトケ〜、と付け加えるハロに、イザークまでもが笑みを浮かべる。 「データーぐらいは渡しておかないとな。アスラン達がうるさいか」 まぁ、自分たちは生で堪能させて貰おう。そういう彼の言葉に、キラはようやく現状を認識した。 「とりあえずは、テーブルクロスか? 外で食べるにしても、最低限のマナーはあるからな」 これがピクニックであれば、また話は変わるが。そういいながら、彼はキラを抱きしめるようにしながら自分の部屋へと足を向けた。 |