断続的に痛みが伝わってくる。 それも、定期的に、だ 「……フレイ……」 そうなのかどうかは自分では判断はできない。だから、キラはすぐ側にいてくれる頼りになる友人に声をかけた。 「何、キラ」 どうしたの? と彼女はすぐに聞き返してくる。 「……痛いの、お腹」 まだ我慢できる程度だが……とキラが言葉を返したときだ。彼女の表情が変わる。 「わかったわ。そうね……何分間隔で痛むのか、はかれる?」 十分間隔になったら、医務室に移動した方がいいだろう、とフレイは口にした。 「うん……」 キラは頷きながら、ベッドに横たわる。そのまま、横向きになって枕を抱きしめた。それでも言われたとおりに視線は時計に向けている。 「ドクター、今、いいですか?」 その間にも、フレイは自分がなすべき行動を的確に判断して動き出していた。 「キラの陣痛が始まったみたいなんです。すみませんが、一応用意をして頂いてくれませんか?」 この言葉に、回線の向こうで何やらあわてふためくような気配がしたことは、キラにもわかる。痛みさえなければ、まだその程度の余裕があるのだ。 「大丈夫です。まだそれほど近い間隔でもありませんから。破水もしていないようだし」 状況が変わったら、また連絡をします……とフレイは微笑む。それよりも、あまり騒がしくしたくないのだ、とも。 それで彼も納得をしたらしい。 「……後は……アイシャさんとマリューさんとナタルさんかしら……あぁ、シホさんにも声をかけておいた方がいいわね」 そうすれば、どこからか問い合わせがあっても対処できるだろうし、艦内の問題がありそうなメンバーを抑えていてくれるのではないか、と彼女は呟いている。 「何、それ……」 「でないと、あんたがゆっくりできないでしょう? ただでさえ、これから体力を使うんだから!」 わかっている? と言われて、キラは頷いて見せた。だが、それはあくまでも知識としてだ。 実際に経験をするのはこれが初めてなのだし、どれだけの体力が必要なのかなんて騒動できるわけがない。 「……まぁ、あたし達も着いているし……いざとなればそれなりの対処を取るからいいわ」 だから、キラはまず体力を温存しておくことを考えなさい……とフレイは指示をしてくる。 「考えてみれば、シホさんならあれに連絡を取れるかもしれないわね」 これるかどうかわからないけど、連絡だけはしておいた方がいいでしょう……とフレイは呟く。 「イザーク?」 「そう。その子の父親」 権利と義務があるでしょう? と言い返してくる。それに知らせないと後がうるさいだろう、とも。 「知っていれば、何とかしてこっちに来るかもしれないでしょう?」 その時には間に合わなくても、顔ぐらいはさっさと見に来てもらった方がいいでしょう? と付け加えられてキラは微笑み返す。 「そうだね……名前も付けてもらいたいし……」 何よりも、子供の顔を見て欲しいから……と付け加える。 「大丈夫よ。戦争は終わったんだから」 フレイのこの言葉に、キラは淡く微笑む。だが、すぐに襲ってきた痛みに、それはかき消された。 イザークとディアッカがともにディオキアの地を踏んだ、まさにその瞬間だ。 「隊長! 副長も!!」 シホの声が耳に届く。と同時に、周囲からまさしくわらわらと兵士達が駆け寄ってくる。そのまま、二人を確保した。 「何なんだ、これは!」 それにイザークの機嫌は一気に爆発をする。 「何でもかまいません! さっさとアークエンジェルに向かってください!」 説明は車に乗り込んでからだ、とシホが言い返してきた。 「ともかく、時間がないようだぜ。言うことを聞いたほうがいいんじゃねぇのか?」 彼女の性格を考えればこういう行動に出ると言うことは何か突発的な事態が起きていると言うことではないか。そう判断して、ディアッカは口を開く。 「……わかっている! だがな……」 「しかも、目的地はアークエンジェルなんだろ? なら、キラに関わっているってことじゃないのか?」 何かを言いかけたイザークをディアッカはこのセリフで封じる。 「……キラに?」 一瞬、思考が止まってしまったのだろう。呆然としている彼の体を、まさしく小脇に抱える。 「で、どれだ、車は」 そのまま彼の体を引きずるようにして歩き出しながら、ディアッカはシホに問いかけた。 「あれです。オルガが運転してくれていますから」 最短距離でアークエンジェルにたどり着くはずだ、とシホが言い返してくる。 「……確かに、確実だな」 もっとも、乗っている方の被害もそれなりに大きいだろうが……とディアッカは心の中で呟く。それでも、一時でも早くキラの様子を確認しなければ、厄介だろう、とも考えるのだ。 今、惚けたまま自分に引きずられている相手が事と次第によってはどのような行動を取ってくれるかもわからないし……と考えれば、ため息もこぼれ落ちてしまう。 「あぁ……キラさんが命の危険にさらされているとか倒れられたわけではないですから、その点に関しては安心してください」 ディアッカの仕草から何を心配しているのか察したのだろう。シホが苦笑とともにこう言ってくる。 「……ってことは何だ?」 あれはまだ宇宙にいるどころか、本国に呼び戻されたはず。つまり、ただでさえ厳しい監視の目がさらに増えた……と言うことだから、勝手に抜け出すことは不可能だと言っていい。 それ以外で、自分たちがこんな風に拉致されてまでアークエンジェルに呼びつけられる理由は何なのだろうか。 ディアッカは本気で悩む。 「……オーブで何かあったか?」 アークエンジェル――と言うよりはフレイであれば、カガリにホットラインを持っているはず。だから、ザフトがまだ掴んでいない内容も、彼女たちが知っている可能性は否定できない。 「着けばわかります」 だから、急いで欲しい……と言うシホに、ディアッカはともかくイザークを車の後部座席に押し込んだ。 |