「お義父さん、すみません」
 後部座席からこんな声が飛んでくる。
「何。俺も気分転換をし語ったからかまわないよ。で、どこに行きたいんだね?」
 あまり遠くは無理だが……と付け加えれば、キラは小さく頷いてみせた。
「取りあえず、下着なんか買えるお店よね。そろそろいろいろと準備をしておかないと」
 ナタルさんから、必要なものを書き出してもらったから、安心して……とフレイが胸を張る。
「どうせなら、気分が明るくなるようなものを探しましょうね」
 そして、ラクスも自然な微笑みを浮かべながらこういった。
「いいよ、普通ので」
 別段、病気というわけじゃないし……とキラが言い返している。しかし、彼女たち二人に口で勝てるはずがない、というのもわかりきっていることではあった。
「でも……やっぱり、脱ぎ着が楽な方がいいんだけど……二人の選んでくれる服は可愛いけど……でも、脱ぎ着しにくいんだもん」
 エザリアの選んでくれる服もそうだけど……とキラは小首をかしげる。
「困ってると、イザークが手伝ってくれるからいいけど」
 この言葉に、バルトフェルドは苦笑を禁じ得ない。
 しかし、本当にキラはエザリアの狙いがわかっていないのか。だが、この子であれば十分あり得そうだと思ってしまうのも事実だ。
「それは……まぁ、いろいろあるわよ」
 フレイにしてもラクスにしてもそれがわかっていてもあえて何も言わないのは、キラの気持ちを考えてのことか。
「アイシャも、良く俺に手伝わせるからな。気にすることじゃない」
 ともかく、フォローをしようかとこう口にする。
「お義父さん」
「仲がよろしいのはかまいませんが……あまり人前でおっしゃらない方がよろしいですわよ」
 それに対し、キラを除いた二人から即座にブーイングが飛んできた。
「ダメなの?」
 だが、キラの問いかけには、二人とも即座に態度を改める。
「キラとあいつならいいのよ。お義父さんの場合、別の意図が見え隠れしているんだもの」
「まぁ、お年ですしね、バルトフェルド隊長の場合」
 フレイの言葉はともかく、ラクスのセリフに少し傷ついたことは否定しない。
「お義父さんは、まだ若いでしょう?」
 議長と同じ年だってお聞きしたけど……と小首をかしげているキラの態度だけがある意味救いだった。

 ジプリールの死とともに、地球軍は取りあえずの抵抗をやめた。
 そして、ザフト内部にいた強硬派も無事に捕らえることができた。
「……逆に言えば、これで膿を出すことができた、と言うことでしょうかな」
 こう言いながら、デュランダルはいすに腰を下ろす。
「そう言うことだろうね……これで、我々の失態も片づいたと言えるのかね」
 ため息とともにシーゲルがこう告げる。
「そうあって欲しいものだわ」
 エザリアの言葉に、他の者達も頷いて見せた。
「ともかく、後は政治の仕事だろう……軍人達には警戒を怠らせずに、それでも休息を与えるべきだろうな」
 現状では十分にそれが可能だろう、と口にしたのはパトリックだ。
「そうね。そうしてもらえるとありがたいわね」
 エザリアの言葉の裏にどのような意味が隠されているのか、他の者達にもわかったのだろう。その口元に苦笑が浮かんでいるのが確認できた。
「……バルトフェルド隊長もおいでだが、地球でのブルーコスモスの動きがわからない以上、万全を期した方がいいだろうね」
 だが、個人的に言えば、彼女の気持ちがわからないわけではない。
 何よりも、そろそろあの二人の子供が生まれてもおかしくない時期だ。誕生の場に立ち会わなくても、そばに夫がいることがキラにとってどれだけ心強いことか。そう考えれば、結論は一つしかないだろう。
「その代わり、エザリア様にはこちらでご助言を頂かなければなりませんが」
「仕方がないわね」
 一番に孫を抱きたかったのだが、その役目はイザークに譲りましょう、と彼女は口にする。
「エザリア……それこそ、それはイザーク君とキラさんの役目だろう。彼等の子供なのだから」
 親としての一番の楽しみを奪ってはいけない、とシーゲルがたしなめる。
「イザーク君は今まで隊長として義務を果たしたのだからね。そのくらいはデュランダルも許してくれるのではないかな?」
 他にも、あの地にはバルトフェルドがいる。彼女を守ってきた者達も、だ。
 そういう者達に先に祝わせてやるべきなのではないか、と彼は続けた。
「……そうかもしれませんけど……」
「いつまでもあちらにいるわけではあるまい。こちらにいる間に、二人のために準備を整えておけば良かろう」
 さらに、パトリックまでがこんな言葉を口にする。
「そう言われてみれば、そうね」
 この言葉に、あっさりと納得をしたらしい。それでも、その方が恐いのではないか、と思うのはデュランダルだけではないのではないか。
「……まぁ、キラ君に嫌がられないようにな」
 彼女を止めるのは不可能だ……というよりも、煽ったという自覚があるからだろう。パトリックにしてもシーゲルにしても、こう口にするのが精一杯だったようだ。
「……では、私は一度評議会の方に戻らせて頂きます」
 まずはクルーゼに連絡を取ってイザークをキラの元に行かせよう。オーブを仲介に大西洋連合との和平を進めるにしても時間がかかることは目に見えているのだ。その間に、その程度の処理はできるだろうと判断をする。
「さて……無事に生まれてくれればいいが」
 彼等の子であれば可愛いだろう、とデュランダルは小さな声で呟いていた。