月の周辺では大きな戦闘が繰り広げられているらしい。 そして、地球でもザフトが地球軍の中枢を叩くための作戦が進行中らしい。 しかし、それらは全て、キラから遠く離れた場所でのことだった。 「……少しぐらいは、情報をくれてもいいと思うんだけど……」 完全にその手の情報から切り離されたのは初めてかもしれない。前の時もそれなりに情報は制御されていたが、フリーダムとジャスティスの製造に関わっていた以上、それなりに入ってきていたのだ。 しかし、今はどこでどうなっているのかもわからない。 「自分で調べればいいのかもしれないけど……」 現状では、パソコンに触れる時間すら制限されている。しかも、かならず誰かが側にいる以上、ハッキングもできないのだ。 「……本当に」 こう言いながら、キラは細い編み棒を動かす。 気が付けば、編み物もかなり上達をしている。赤ちゃんの靴下だけではなく、ケープや帽子と言ったものもこった模様を編み込めるようになった。もっとも、毎日あきることなく作っていれば上達しない方がおかしいのだろうが。 「アリアちゃん。それは引っ張らないで」 しかも、何度も復習をするようにし向けてくれる相手もいることだし……と思いながら、ともかく声をかけてみる。 「ほどけちゃうでしょう?」 しかも、こう言うときに限って彼女以外誰もいないのだ。 逆に言えば、彼女が側にいればキラが無茶をしない、とわかっているのだろう。 「お願いだから、ね?」 それから手を離して……と言っても、まだ誕生日前の赤ちゃんにわかるわけがない。しっかりと彼女は手にしていた経とを自分の方へと引っ張る。 「あっ」 そうすれば、キラの手元にあったケープになるはずのものも引っ張られてしまった。そして、そのまま彼女の手から滑り落ちてしまう。 「ダメだって……」 ここまでお腹が大きくなってしまえば、そう簡単にかがむことができない。何よりも、急に動いて転ぶのが恐いし……と思ってしまう。ミネルバに避難したばかり頃の自分の言動から見れば、まさしく雲泥の差だと言っていい。そう考えれば、苦笑が浮かんでくる。 「本当に、もう……」 アリアの手の中で、せっかく編んだケープがどんどん小さくなっていく。 「どうして、こう言うときに誰もいてくれないのさ」 さっきとは違う意味でキラは怒りを感じてしまう。 「そうしたら、ここまで被害が大きくならなくてすんだのに……」 全部ほどいてしまったアリアは、今度は毛糸を絡めて遊んでいる。あの様子では、もうあの毛糸は使い物にならないだろう。 「……きれいに編めたと思ったのに……」 ちょっと悔しい……と考えた瞬間だ。キラの目元に涙がにじんでくる。 「キラ、おやつにしましょう……って、アリア、何をしているの?」 まるでタイミングを計ったかのようにフレイが踏み込んできた。 「フレイ、遅い」 キラは恨めしそうに彼女をにらみ付ける。 「三日分の努力がダメになっちゃったよ……」 こう口にした瞬間、キラの瞳から涙がこぼれ落ちた。 「あぁ、泣かないでってば」 慌てたようにフレイが駆け寄ってくる。 「アリアも、はいはいどころか伝い歩きができるようになっちゃったものね……目を離さない方がいいってことかしら」 と言うことは、ローテーションを組み直さないと……と彼女は呟く。 「何、それ」 「お義父さんとあの三人以外の男どもをキラに近づけるわけにいかないでしょう。だからよ」 何でいきなりそんなことを言い出すのかわからない、とキラは思う。 「イザークは気にしないよ」 アークエンジェルのクルーなら、と小首をかしげながら口にする。 「あいつならそうだろうけど……他の連中がそうだと限らないじゃない」 困ったようにフレイはため息をつく。 「まぁ、いいわ。シホさんがこっちに戻ってきてくれることになったし、明日あたり、ラクスさんも帰ってくるもの」 それに、ミネルバの連中もキラに会いたいって言っているわ……とフレイは付け加えた。 「ミネルバって……シン君やレイ君にルナマリアさん達?」 と言うことは、彼等はまだ無事なのか、とキラは安心する。それすらも聞かされていなかったのだら、と。 「そう。久々に時間が取れそうだからって……かまわないでしょう?」 あいつらなら、安全パイだもの……とフレイは笑う。 「僕もみんなに会いたいからいいけど……安全パイって、何?」 安全じゃない人もいるのか、とキラは聞き返す。 「……あれがいるでしょう、あれが」 まぁ、今宇宙だって言うから安全だろうけど……とフレイは口にする。でも、今ひとつ安心できないけどね……と付け加える彼女に、キラは苦笑を返すしかない。 「ともかく、今はアリアね。この場合、相談はナタルさんかな」 お母さんに惨状を見てもらった方がいいよね、とフレイは口にする。 「と言うわけで、呼び出しましょうか」 そろそろおねむのようだし……と彼女は付け加えた。 「そうだね。でも、その前にアリアもおやつの方がいいんじゃないの?」 指しゃぶりを始めたから、お腹がすいているんじゃないの? とキラは口にする。 「そう言うことに気づけるようになったなら、キラもお母さんの一歩手前よね」 いいことだわ、とフレイは笑い声を立てた。 「フレイあのね……って、アリア、それはダメ!」 それは食べるものじゃないの! とキラは慌ててアリアの口から毛糸を取り上げようと床に膝をつく。そのまま彼女の口元に手を伸ばした。 「何でも口で確認するのよね、赤ちゃんって」 飲み込まないとは思うけど……と言いながら、フレイは足早に端末へと歩み寄っていく。そのままブリッジにいるナタルへと連絡を入れている。 「アリア。だぁめ」 二人の会話を聞きながらキラは彼女の口から毛糸を引っ張り出す。 それが気に入らなかったのだろう。 アリアは火がついたように泣き出してしまう。 「アリア……いいこだから、ね」 こうなれば、キラにはどうしていいのかわからない。助けを求めるように視線をフレイ達へと向けた。 |