「……イザーク?」
 通信室に放り込まれたキラは思わず目を丸くしてしまう。
『何だ? 俺では不満だったのか?』
 からかうようにこう問いかけられて、キラは慌て手首を横に振った。
「違う……ちょっと驚いたから……」
 まさか、この忙しい時期に連絡をもらえるとは思わなかった……とキラは素直に口にする。
『大変なときだから、息抜きも必要だ、と言うことだそうだ』
 ディアッカがお膳立てをしてくれたのだ、とイザークは苦笑を浮かべた。
「そうなの?」
『あいつなりに気を遣ってくれたらしい。まぁ、後で顔を合わせたときに礼でも言ってくれ』
「そうだね」
 この言葉とともに、キラはゆっくりといすに腰を下ろす。こういう何気ない仕草でも、最近はちょっと辛くなってきたのだ。それでも、まだ小さい……と言われてはどうなるのか。
『大きくなったな』
「うん。でも、フレイに言わせるとまだ小さいんだって……」
 重いのに……と言いながら、キラは自分のお腹をなでる。
『あまり無理はするな。小さく産んで大きく育てる、という言葉もあるからな』
 それよりも、それでキラが体調を崩す方が問題だ、と彼は口にした。
「大丈夫だとは思うけど……今だって、みんなにあれこれ管理されているような状況だもの」
 バルトフェルド隊のメンバーだけではなくラクスまで加わったみたいだ……とキラは微苦笑を彼に返す。
「何か……お義母さまが来るとか来ないとか言っているって言う話も聞いたんだけど……」
 本当かな、とキラは小首をかしげる。その瞬間、イザークの表情がこわばった。
「イザーク?」
『大丈夫だ……家の者には意地でも制止するように言ってある』
 その表情のまま、イザークはとんでもないセリフを口にしてくれる。
「……本当だったんだ……」
 まさか、と思っていたのに、とキラは呆然とした表情のまま呟く。
『心配するな。取りあえず、ディアッカの父君やニコルのご両親が見張っていてくれている』
 だから、少なくとも今はそちらに向かわないはずだ……とイザークは付け加える。
『もっとも……子供が生まれたときにはどうなるか……俺にもわからないがな……』
 その後で、彼は乾いた笑いを漏らす。
「それは最初から覚悟しているけど……でも、その前にイザークが来てくれると、嬉しいな」
 できれば、生まれる瞬間に立ち会ってもらいたいところだが、それは難しいだろう……とキラは心の中で呟く。
『当たり前だ。それまでに、このくだらない戦争も終わらせるさ』
 そうなれば、オーブにだって行けるだろう。キラの両親にも生まれてきた子の顔を見てもらわないといけないだろうからな、と彼は笑う。
「うん。他にもカガリとかミリィ達にも、ね」
 キラもまた、そんな彼に微笑み返す。
『任せておけ。俺が嘘を言ったことがあったか?』
 ないだろう、と言われて、キラは頷く。
『すぐに、会いに行ってやる。だから、おとなしく待っていろ』
 この言葉に、キラは満面の笑みを浮かべた。

「……何をするんだ、カガリ……」
 いきなり拘束されたユウナが、カガリに向かってこう問いかけてくる。
「残念だったな、ユウナ。セイランが何をしでかそうとしているか、全てばれている」
 裏付けも取ったからな、とカガリは言い返した。
「だから、何のことだい?」
 あくまでもしらを切りと押すつもりなのか。それとも本気でわかっていないのか。どちらなのか……とカガリはあきれたくなる。
「お前らが大西洋連合やブルーコスモスとどのようなやりとりをしていたのか。そして、それがオーブの国内法に照らした場合、どのような意味を持っているのか。本当にわからないというなら、じっくりと調べさせてやるよ」
 牢屋の中でな、とカガリは相手をにらみ付けた。
「お前らの罪状は、国家反逆罪だ。五氏族家の一つとはいえ、見過ごすことはできない」
 この言葉に、ユウナは信じられないという表情を作る。
「何を言っているんだい、カガリ。それこそ言いがかりじゃないか」
「残念だが、言い訳や申し開きは法廷以外では聞く気になれん」
 今更見苦しいな、とカガリはユウナから視線をそらした。
「連れて行け。ただし、人目に触れさせるなよ」
 そのくらいは情けをかけてやろう、とカガリは付け加える。
「カガリ!」
 引き立てられながら、ユウナが叫ぶ。それをカガリはきれいに聞き流す。
「アマギ」
「お任せください、カガリ様」
 きちんと、目的地までお連れいたします……という彼に、カガリはしっかりと頷く。
「キサカ一佐、トダカ一佐からも、目標を確保。移送を完了した、という連絡が入っております」
 後は、セイランの周囲に群がっていた者達の中からブルーコスモス関係者をあぶり出すだけだ、とニシザワが報告をしてくる。
「そうか。任せてかまわないな?」
「もちろんです、カガリ様」
 この言葉に、カガリはまた頷く。
「この機会に膿は全部出すぞ!」
 でなければ、また同じようなことを考える人間が出てくる。それではいけない、と彼女は口にした。
「オーブはどんなときでも中立でなければいけないんだ」
 そのために、自分たち首長家は存在している。決して、その逆であってはいけないのだ、とカガリは心の中で呟いていた。