やがて、デュランダルともにアスラン達もディオキアを離れた。それを確認したラクスも、他の基地を慰問するために明日には移動をすることになっている。
「でも、すぐに戻ってきますわ」
 そうしたら、キラが出産をするまでここにいるつもりだ……と彼女は微笑む。
「ラクス」
「でないと、エザリア様がここに乗り込んでいらっしゃいますわよ」
 キラの反論をこう言って彼女は封じる。
「……いくら、お義母様でも、そこまでは……」
 それでも、何とかこう言い返す。もちろん、キラ自身完全に自分の言葉を信じているわけではないが。それでも、あれだけ責任感の強いエザリアがそこまでするとは思いたくなかったのだ。
「わからないわよ、エザリア様なら」
 アイシャさんより迫力あるじゃない……と口を挟んできたのはフレイだ。
「……フレイ……」
「そう思われますでしょう?」
 キラが言葉を口にするよりも早く、ラクスがフレイに同意を示す。こうなってしまえば、キラではもう口を挟むことができない。
「……フレイはともかく、ラクスにまでそう思われているなんて……何をしたんだろう、お義母様」
 自分が知っている限りでは、エザリアは多少《過保護》だとしか言いようがない女性だ。それに関しては、アークエンジェルの面々はもちろん、ラクスだって変わらないと思える。
 だが、自分が知らない場所ではどうだったのか……と聞かれれば悩むしかないことも事実。
「……でも、今ならイザークも止めてくれるよね……話を聞けば」
 そして、屋敷の者達がエザリアのそんな行動を彼に知らせないわけがないのだ。
 だから大丈夫だろう、とキラは心の中で呟く。
「そう言うことですから、エザリア様対策に残らせて頂きますの」
 何も心配はいらないとラクスは微笑む。
「それに、私がここに残っていた方が良いか、とも思いますし」
 いろいろな意味で……と付け加えられたラクスの言葉の裏に複雑な意味をキラは感じていた。それは主に政治的なものではないか。そうも思う。
「そうそう。慰問先からキラが食べられそうなものを送りますわ。そのくらいぐらいは楽しんでもかまわないと思いますの」
 ですから、ちゃんと食べてくださいませね……とラクスはキラに笑顔を向けてくる。
「……ラクス……」
「あらあら、そのような表情をしないでくださいませ」
 自分が好きでしていることなのだし、とラクスはさらに言葉を重ねてきた。
「そうよ、キラ。みんな、好きでやっていることなの」
 だから、気にしなくていい……とフレイも微笑む。
「そう言うことだから」
「可愛い赤ちゃんを産んでくださいませね!」
 こう言いながら詰め寄ってくる二人に、キラは頷くしかできなかった。

 宇宙に駐留している部隊の多くが集められている。
「なんて言うか……壮観だよな」
 その光景を見つめながら、ディアッカがこう呟くのが耳に届く。
「本気で、最終決戦を仕掛けるつもりなのなね」
 どう思う、と彼はイザークに向かってこう問いかけてきた。
「俺に聞くな」
 その言葉をイザークは一言で切って捨てる。
「イザーク」
「上がどのような判断をしようと、俺たちはそれに従うだけだ」
 違うのか? と逆に聞き返す。
「そうだけどな」
 でも……とディアッカはさらに言葉を重ねてくる。そんな彼をイザークは遠慮なくにらみ付けた。
「……はいはい。聞いた俺が悪かったです」
 申し訳ありませんでした、といつもの口調で言い返してくる。その口調がイザークをさらにいらだたせていると本人は気づいているのかいないのか。もっとも、それを指摘しても意味はないだろう、と言うこともわかっている。
「それよりもさ。今なら連絡取れるんじゃないのか?」
 キラと……と不意にディアッカは話題を変えてきた。
「ディアッカ?」
 何を言っているんだ、と本気で言い返してしまう。
「結構でかい戦闘だったらしいぜ、ディオキアのは。で、またキラが地球軍を撤退させたんだと」
 さっきあったニコルがそう言っていた……と彼は笑いながら付け加える。
「……いつの間に」
「あのバカがまた暴走したらしいからな」
 それもあって、ニコルがこっそりと情報を流してくれたのだ、とディアッカは囁く。どうやら、今回ばかりは本気で怒っているらしいとも。
「……キラは、俺の妻だぞ……」
 本気で何を考えているんだ、とイザークは頭を抱えたくなる。しかもだ。彼女の体内には自分の子供が宿っているのに、未だに諦めていないのか、とも呟く。
「そう言うことだからさ。声をかけて安心させてやれって」
 顔を見せるだけでも安心するのではないか、とディアッカは付け加える。
「何なら、許可を取ってきてやろうか?」
 クルーゼに言えば間違いなくくれるだろうという言葉にイザークは悩む。個人的なことで、と思うのだ。
「精神的に不安定だと、お腹の子供の成長に差し障りがあるとも聞いたことがあるんだがな」
 それに、イザークが動かないことでアスランが馬鹿なことを考えかねないぞ、と彼は付け加える。
「そんなことをさせるか!」
「だったら、さっさと行って来いって」
 後のことは引き受けてやるから……と言いながら、ディアッカはイザークの背中を叩く。
 ひょっとして、自分はうまく乗せられたのだろうか。そんなことも考えてしまう。
 だが、珍しく腹が立たないな。そんな風にも考えてしまうのだ。
「……ちゃんと報告をしろよ」
 こう言い残すとイザークは歩き出す。
「キラによろしくな」
 そんな彼の背中に向かってディアッカのこんなのどかなセリフが投げつけられた。