一晩寝て起きてすっきりとしたからだろうか。キラは早々に目的のデーターを見つけ出すことができた。
 デュランダル達が出発する前に報告だけはできる。
 その事実に、キラはほっと胸をなで下ろした。
「後は……任せるしかないしね」
 議長をはじめとした人々に……とキラは呟く。
 彼等であれば、間違いなく良い方向へ物事を進めてくれるだろう。もちろん、その中にはカガリの存在も含まれている。
「後、僕にできることは……というと」
 何かな、とキラは呟く。
「あんたがすることは一つしかないでしょう!」
 それをしっかりと耳にしたのだろう。フレイが即座に口を開く。
「後は体を休めて、お腹の中の子をちゃんと大きくする! でないと、この世に出てきても即座に保育器のお世話になりかねないわよ!」
 ただでさえ、ちょっと標準より小さいのだから、とフレイは付け加えた。
「……小さいって……これで?」
 こんなに大きくなったのに……とキラは呟く。
「小さいの。もう少し大きくてもいいのよ、本当は」
 もっとも、キラの体形を考えれば、あまり大きすぎてもダメなんだけど……と彼女は口にする。
「……難しいんだね……」
「だから、あんたに自己管理しろなんて言ってないでしょう?」
 ちゃんと、あたしが管理してあげるから……とフレイは微笑む。
「と言うわけで、ご飯よ。その後は、お風呂に入ってさっぱりしてくればいいわ」
 腰も楽でしょう? と言われて、キラは反射的に頷いてしまう。
「でも」
 しかし、すぐにあることを思い出して小首をかしげる。
「アークエンジェルにお風呂なんて、あったっけ?」
 かといって、フレイ達が今、艦外に出ることを許可してくれているはずがないだろう、とキラは思う。
 少なくとも、アスランがいる限りは……とそう思うのだ。
「マードックさん達が作っちゃったのよ。まぁ、お義父さんが許可を出したからに決まっているんだろうけど」
 だから、大丈夫……と言われて、キラは頭を抱えたくなった。
「何、それ」
 彼等が過保護だとは思っていたが、そこまで普通するか……と言いたくなってしまう。
「いいじゃない。アイシャさんはもちろん、マリューさんもナタルさんも大喜びよ。ついでに、あのセクハラ大魔王もね」
 何をしようとしているのか、だいたい想像着いているが……とフレイは笑う。
「まぁ……フラガさんだからねぇ」
 確かに、何をしでかしそうかわかってしまうよね、とキラも頷く。
「取りあえず、あんたが入るときにはあたしも付き合うし……入り口に番犬を三匹並べておけば大丈夫でしょう」
 いっそ、アリアと一緒にナタルさんにも入浴してもらおうかしら……とフレイは真顔で口にする。
「でも、ナタルさんも艦の仕事に復帰したんでしょう?」
 忙しくないの? とキラは聞き返す。
「大丈夫よ。今のところ、あの三人と不良中年の監視がメインだから」
 アリアがいるから、ブリッジで勤務をするのは最小限なのだ、とフレイは笑う。
「それに、今はアイシャさんもいるもの」
 だから、一人一人の負担は少ないのではないか、と彼女は付け加えた。
「でも」
「何より、キラがここにいるからお義父さんがまじめにお仕事しているのよ。だから、負担が少ないんだって」
 何だかなぁ、それは……とキラは思う。
「……相変わらずなんだ」
「でも、それがお義父さんでしょう」
 キラの言葉に、フレイが笑いを漏らす。
「と言うことで、貴方はご飯よ。今日はあっさりとしたリゾットを作っていてくれるって言っていたわ」
 それならちゃんと食べられるでしょう? とフレイが問いかけてくる。
「そうだね」
 そんな彼女に向けてキラは微笑み返した。

 もっとも、そんな穏やかな時間を過ごしている人間だけではない。
「……本当に……」
 気に入らない、とアスランは室内をうろつき回っている。だが、決してドアから外に出られないのだ、彼は。もちろん、窓からも同じ事である。
「諦めるんですね。自業自得です」
 そんなアスランの態度に、ある意味慣れているニコルがこう言ってきた。
「付き合わされている僕の身にもなってください」
「だったら、出て行けばいいだろう? お前まで禁足対象になっていないはずだ」
 好きな場所に行けばいいではないか、とアスランは吐き捨てる。
「残念ですが、貴方と一緒にいるようにとのご命令ですので」
 あきらめろ、とニコルが口にした。
「そもそも、貴方があの時、勝手にキラさんに会いに行かなければ、食事ぐらいは許可できそうだったのですけどね。もちろん、ラクスさんや他の人と同席の上でしたが」
 それでも、ゆっくりと話をできたはずだ、と彼は付け加える。その機会を潰したのは、結局自分だろう、と。
「……お前達が邪魔するから、いけないんだろうが」
「キラさんにとって、貴方の言動がマイナスにならなければ邪魔はしません」
 どうやら、根本から話が合わないのだ……とアスランは理解をする。
 いや、今までだってそれはわかっていたのだ。だが、ここまでだったとは思わなかった……と言うところだろう。
「お前らがそんなだから、キラは今でも自分の間違いに気づかないんだろうが」
 でなければ、キラは素直に自分の手の中に落ちてきてくれたはずなのに。そう思う。
「いい加減、現実を見たらどうです? あのパトリック様でさえ、貴方のその意見には同意をなさらないじゃないですか」
 誰だって昔のままではいられない。今のキラを見つめる勇気を持て……とニコルは諭してくる。
 しかし、アスランにはもう、彼の言葉に耳を貸す気にはなれなかった。
「……キラ……」
 さっさと義務を果たしてしまえばいい。そうしたら、キラにだって自分の言葉に耳を貸す余裕ができるはずだ。
 アスランはそう信じ切っていた。