「……さて……これはどう判断するべきものかね」 キラが見つけたデーターに目を通したデュランダルは小さなため息を漏らす。 「今、フレイからカガリに連絡を取れるかどうか、確認していますがね」 ちょっと難しそうだ……と告げるバルトフェルドの言葉はもっともだろう。現状で、簡単に連絡が取れる方がおかしい。 それでも、彼自身ではなく養女である《フレイ》にさせていると言うことは、それなりの理由があると言うことなのだろう。 「なら、それに関しては君達に任せよう。我々としては……うかつに動かないようにした方がいいだろうね」 オーブ国内のことだ。オーブ内で何かを行っている最中かもしれないし、とデュランダルは付け加える。 「そうですな」 確かに、ウズミやカガリであれば、この事実を知れば即座に動くだろう。 だが、彼等がこれを知っているのかどうか。それが大きな問題だ、と思う。だからこそ、無理を承知でフレイにカガリに連絡を入れさせているのだが。 「あぁ、もう一つの方ですが……取りあえず薬物に関しては見つけたようです」 しかし、肝心の調整装置についてはまだなのだ、とキラが肩を落としていた……とバルトフェルドは付け加える。 「あまり、無理をさせないように……あの男もあの子供達については割と口が軽いからね」 そちらから何かヒントが得られるかもしれない。この言葉に、バルトフェルドは頷いてみせる。 「情報が多ければ、あの子も早めに目的にたどり着けるかもしれませんからね」 邪魔さえ入らなければ、の話だが……という言葉を付け加えれば、デュランダルも苦笑を浮かべた。 「彼も困ったものだね」 もっとも、今はラクスと一緒にいるから、当分は大丈夫ではないか、と彼は口にする。ラクスとニコルの目をかいくぐってキラの元に行くのは不可能に近いだろうが。その言葉にバルトフェルドも納得できる。 しかし、その予想を超えた行動を取ってくれるのが《アスラン・ザラ》なのだ。 本当に、あの情熱をいい加減他のことに向けてくれないだろうか。そうすれば、世の中が平和になるような気がするのは錯覚だろうか、と意味のないことまで考えてしまう。 「どちらにしても、地球軍とブルーコスモス、それにその背後にいる者達についてわかっただけでも十分だろうね」 それに関しては、後は政治の世界ですべき事だろう、とデュランダルは口にする。 「もっとも、そのためにはオーブに安定していてもらわなければならないのだが……」 他国である以上、口を出せないというのが歯がゆいね……と彼は呟く。 「仕方がありませんな。それでも……あの国でまだ同胞が受け入れられている、という事実がある以上、我々としては見守るしかありますまい」 ユニウスセブンや戦争で被害を受けた者達が、あの国に逃げ込んでいる。それを追い出しているという話は聞こえてきていないのだ。 それはすなわち、まだウズミやカガリをはじめとした《アスハ》がしっかりと実権を握っている証拠だろう。 「そうするしかないだろうね。後は……地球軍の動きか」 再び同程度の規模で攻めてこられれば辛いかもしれないね……と彼は呟く。 もっとも、キラの存在がある以上、彼等としてもうかつに手出しをしてこないだろう、とバルトフェルドは考えていた。また同じように戦闘が不能になった場合、こちらが見逃すかどうかあちらとしてもわからないはずだ。 最悪、被害が段違いに大きくなるだろう。 そう考えれば、うかつなことはしてこないと考える。もっとも、あくまでも希望的観測ではあるが。 「ともかく、今回の処理が終わり次第、私は宇宙に戻るよ。もちろん、アスランも連れてね」 後のことは君に頼むことになる、とデュランダルは口にする。 「ご期待に添えるよう、がんばりましょう」 可愛い娘達のために努力は惜しまないつもりだが……とバルトフェルドはしっかりと頷いて見せた。 『ようやく連絡が取れたわ!』 回線を開いた瞬間、フレイが怒鳴るようにこう言ってきた。 「……そうは言うがな」 『忙しいって言いたいのはわかっているわよ! でも、こっちとしても緊急事態だわ』 最悪、オーブとプラントが敵対することになるかもしれない、と彼女は言い返してくる。 「……どういうことだ、それは」 さすがに、今の一言は無視できない。 『キラが地球軍のマザーをハッキングして、セイランのバカの証拠を見つけちゃったのよ!』 知っているわよね、もちろん……と彼女は口にする。 「セイランがブルーコスモスとパイプを持っている、と言うことは、な。今、対策中だ」 さすがに、相手も首長家である以上、うかつな行動は取れないのだ。だから、根回しに時間がかかっているのだ、とも言い返す。 相手が他の誰かであれば決してこのようなことは口にしない。 しかし、目の前の相手が信頼できることはよくわかっている。そして、きっとその情報を手に入れたと同時に、こちらに連絡を入れようとしてくれたのだろうと言うことも、だ。 『そんなんじゃないわよ!』 キラが手に入れた情報は……とフレイは言い返す。 『取りあえず、この回線は安全なのよね?』 キラがシステムを構築した後、誰の手も触れさせていないわよね、とフレイは言葉を重ねてきた。 「もちろんだ。これに関しては、誰にも触れさせていない。それがどうかしたのか?」 『ならいいわ。今、送るから』 もちろん、暗号化して、だけど……と彼女は口にしながら、視線を横に流した。どうやら、モニターに映らない場所に誰かいるらしい。その人物が、データー送付の作業を行ってくれているのだろう。 『パスは予定日よ』 フレイのこのセリフは、他の人間では何のことかわからないだろう。だが、カガリにはしっかりとわかった。だからこそ、彼女もそれをパスワードに使ったのだろう。 そんなことを考えているうちに、データーの受信が終わる。 「そう言えば、キラは無事か?」 誰に聞かれてもごまかせるような無難な話題を口にしながら、カガリはデーターを展開していく。 『元気よ。こっちに来てから、監視にさける人数が増えたから、無茶も減っているしね』 もっとも、脇から余計な連中が出てこなければ、の話だが……とフレイは怒りを滲ませて付け加えた。 「……ひょっとして、あれが来ているのか?」 『来ているのよ! まったく……いい加減、首に縄でも付けてどこかに隔離しておいて欲しいわ』 それも何だかなぁ、とカガリは思う。 しかし、すぐにそんな気持ちは消え去った。 「……バカだ、バカだ……と思っていたが、天文学的にバカだったんだな、あいつは」 目の前にあったのは、セイランが太平洋連合に当てた極秘文書の写しだった。 その内容にカガリは怒りを通り越してあきれたくなる。だからといって、実際にそんなことはできないだろうが。 「今すぐ、首に鎖でも付けて、どこかに放り込むか」 これを見せれば、ウズミ達も反対しないだろう。 『そうしてよ。でないと、安心できないもの』 言外に『任せるから』と言われているような気がするのはカガリの錯覚ではないはずだ。 「任せておけ」 カガリはしっかりとした口調でこう言い返す。その脳裏では、これから自分が取るべき行動が次々と浮かんでいた。 |