キラが探していたのは、彼等に関するデーターだ。
 地球軍のマザーになければ、そこからブルーコスモスの本拠地を割り出して……と思いながら作業を続けていく。
「……嘘、でしょう……」
 だが、偶然行き着いたデーターの中身を確認した瞬間、キラはこう呟いてしまう。
「キラ?」
 どうかしたのか……と彼女の足下で寝っ転がっていたシャニが体を起こしながらこう問いかけてくる。
「ちょっと待って……取りあえず、ここまでのルートを確保して……それからお義父さんに相談したほうがいよね……」
 目的のデーターではないけれど……と呟きながら、キラはいくつかのキーを叩き、今までのルートを保存したまま自分の痕跡を消す。もちろん、目的のデーターは既に保存済みだ。
「シャニ……悪いけど……」
「隊長に声をかける」
 迎えに行くのはしないけど……と彼は続ける。キラを一人にしたらその方が恐いから、とも。
「……恐い?」
 艦内で何があるのだろう……とキラは小首をかしげる。
「フレイに怒られる」
 アリアには泣かれるし、ナタルにはにらまれる……と彼は言い返してきた。
「何で?」
 ますます訳がわからない、とキラは首を反対側にかしげ直す。もちろん、答えが出るわけはない。
「隊長、すぐ来るって」
 悩んでいる間にシャニは全てを終わらせてきたらしい。足下に戻ってくると、またうずくまる。
「ありがとう」
 それよりもいすに座った方がいいのではないか。そうは思うのだが、彼の場合、床の方が楽らしい。その理由が、すぐに寝っ転がれるから……というのは何なのだろうか。
「キラに、ほめられた」
 ふわっとシャニは笑う。
「後で、自慢してやろう」
 しかし、この言葉はちょっと違うのではないか。いや、それは彼等の勝手なのだが、その結果、キラにほめられようとあれこれやらかす他の二人がちょっと鬱陶しいかも……と思ってしまうのだ。
「ほどほどにね」
 オルガはともかく、クロトは暴走しかねないし……とも呟く。
 その時だ。
「キラ! どうしたのかね?」
 肩で息をしたバルトフェルドが飛び込んでくる。
「どうって……」
 ひょっとして艦内を全力疾走してきたのだろうか。彼の様子からそんなことを考えてしまう。
「シャニ、なんて言ったの?」
 そんなに焦らせるようなことを……とキラは彼に問いかけた。
「キラが、すぐに来てって。大変なことがあったからって」
 そう言った、とシャニは言い返してくる。多少言葉が足りないような気がするが、基本的に間違ってはいない。と言うことは、バルトフェルドが勝手に誤解した、と言うべきなのだろうか。
「キラがそんな風に俺のことを呼び出すのは今までなかったことだからね」
 驚いたのだ、とバルトフェルドは苦笑を浮かべる。
「ごめんなさい」
 まさかそんなことになるとは思わなかったから、とキラはこう口にした。
「謝ることではないよ。それで……どうしたのかね?」
 早めに対処をした方がいい事態なのだろう? と問いかけられて、キラは慌てて視線をモニターに戻す。
「これ……僕にはどう判断をすればいいのかわからないので……」
 そう言いながら、先ほど見つけたデーターをバルトフェルドが見やすいようにする。
「彼等に関することではないようだね」
 こう言いながらも、彼の眉間には深いしわが刻まれ出した。
 それも無理はないだろう、とキラは思う。
「キラ」
「はい」
「議長にお見せしなければならないようだよ。すまないが、何かディスクにまとめてくれないかな?」
 そうすれば、あちらに持って行けるだろう、と彼はキラに告げる。
「最悪の場合、クルーゼ隊長をはじめとした宇宙にいる部隊にも送らなければいけないだろうしね」
 別段、送信してもかまわないのだ。
 だがどこで誰が見ているのかわからない。
 キラのようにハッキングを趣味としている人間がいないとは言えないのだ――もっとも、キラほどの実力の持ち主はそういないだろうが――とバルトフェルドは口にする。
「すぐにします」
 ちょっと待ってください、とキラは手早くデーターをディスクに落とす。
「ハードコピーはどうします?」
 プリントアウトしたものがあれば、パソコンがなくても中身を確認できるのではないか。そう思いながら、キラは問いかける。
「そうだね。それも頼もうか」
 できるだけ、他人の目に触れさせたくない……と言う彼のセリフにキラは頷く。そして、室内のプリンターのスイッチを入れようと腰を上げた。
「俺やる」
 しかし、それよりも早くシャニが動く。
「おやおや。キラのこととなると早いね」
 普段もそうだと嬉しいのだが……と言われても、シャニは気にする様子はない。
「取りあえず、アリアに関してはそれなりに面倒を見てくれているからいいんだがね」
 そんな風にわがままを言えるうちが花だろう、と彼は笑う。その言葉の裏に、ネオとともに捕虜になった三人のことがあるのは否定できない。
「お義父さん……」
「彼等のことは、取りあえず心配はいらないよ」
 まだ余裕がある……と彼は笑う。それはキラを安心させるためなのだろうか。
「焦らなくてもいい。それよりも、確実な仕事をしなさい」
 それにお腹の中の子供のことも考えなさい、と言われて、キラは小さく頷く。
「大丈夫です。今日はこれを見つけちゃったから……明日、また、探してみます」
 ルートさえ確保できていれば何とでもなる。キラはそう言って微笑んだ。