「……どうせ復讐をするなら、派手にしてやろうと思ったんだよ」
 ネオは開き直ったかのようにこういう。その容貌は、嫌と言うほどクルーゼや自分に似ていると、フラガは思う。
 と言うことは、間違いないのだろう。
 間違いなく、彼も『そう』なのだ。
 おそらく、自分の斜め後ろで話を聞いている人間も気づいているだいう。
「と言っても、あのお嬢さんには個人的な恨みはまるで抱いていないがな」
 地球軍――ブルーコスモスが欲しがっていたからもらっていこうと思っただけだ、と彼は低い笑いを漏らす。
「もっとも、そいつがショックを受けることはわかっていたからな。少しは溜飲が下がるか、と思っただけだ」
 個人的に言えば、気は進まなかったがな……と彼はさりげなく呟く。
 それは間違いなく本心だったのだろう。
「俺たちは、命令をこなす以外に生き残る道がないというのも事実だしな」
 まぁ、どのみち戻れない以上、ばっさりと処刑された方がいいだろうが……という言葉の裏にどのような意味がこめられているのか。
「なるほどね。君はともかく、あちらの三人には体調を管理するために必要な装置がある、と言うことだね」
 薬物ではなく、別の《何か》で管理している、と言うことか……とデュランダルが口を挟む。
「それがわかっても、あんたらには何もできないだろうが」
 管理ができない以上、苦しむだけだ。もっとも、それもサンプルとして必要だって言うなら自分には何も言えない、とネオは言い切る。自分たちは《捕虜》だしな、とも。
「……議長……」
 ふっとあることを思い出してフラガはデュランダルに声をかける。
「何かね?」
 フラガが何を言いたいのか、彼にはわかっているのか。低い笑いとともに言葉を返してくる。
「キラに何をさせているのですか? 喜々としてハッキングを仕掛けていましたよ。地球軍のマザーに」
 おかげで、フレイがキレまくっている……とフラガは口にした。とばっちりは、全て自分にくるのだ、とも。
「そのくらいは妥協してくれたまえ。さすがに、彼女以上に早く目的の情報にたどり着ける人間がいないだろうし……時間制限が厳しそうだからね」
 いっそ、地球軍の旗艦を拿捕していれば、あるいはその手間が省けたのかもしれないが、とデュランダルは笑う。
「何を考えているんだ、お前らは」
 ネオの言葉にフラガもデュランダルも視線を彼へと向ける。
「何って言われてもなぁ」
「皆が幸せに暮らせるにはどうしたらいいか、だが?」
 その中に、ブルーコスモスに利用されている者達も含まれているのだが、とデュランダルは付け加えた。
「そのような目的がなければ、こんな厄介な地位についていないよ」
 この本音に、フラガは苦笑を返すしかない。
「彼等もそうだが、自由に生きられる世界を与えてやりたいからね」
 それを邪魔する者達を叩きつぶすのはやぶさかではないのだよ、という彼にフラガも笑い返す。
 そんな彼等を、ネオだけが複雑な表情で見つめていた。

「……本当にお人好しなんだから……」
 タイマーをチェックしながら、フレイは呟く。
「まぁ、あの子がそういう境遇の人たちを見捨てられないって言うのもわかっているんだけどね」
 でなければ、この三人も含めてさっさと見捨ててしまえば楽だったのだろう。フレイはこう付け加える。
「フレイ?」
 何を……とオルガが問いかけてきた。
「だって、そうでしょう。昔から、そう言うことで貧乏くじを引いちゃうのよね、キラって」
 もっとも、自分もそれを利用しようとしていたのだが……と自嘲の笑みを浮かべる。
「あんた達のことを言っているわけじゃないわ」
 安心していい、とフレイは付け加えた。
「だいたいの所、想像は付いているがな」
 そんなフレイに向けて、オルガは苦笑を返してくる。
「サイにも話を聞いている」
 どのような状況だったのかを……と彼は口にした。
「ただ……俺としてはあいつらに生きていて欲しいからな」
 もっとも、キラの方が優先だが……とオルガは言葉を続ける。
「わかっているわよ」
 自分だって同じ気持ちなのだ。だからこそ、こうしてキラの邪魔をしないようにしているのだし、とフレイは低い声で付け加える。
「でも、時間制限は必要だわ」
 キラが普通の体であれば何も言わない。
 今の彼女は、コーディネイターにしては多少体が弱いと言えるかもしれないが、それでも自分と同じ程度ではあるのだ。
 だから、多少のことは目くじらを立てなくてもすむようになってきている。
 しかし、今の彼女は自分一人の体ではない。
「キラって、昔から一つのことに集中をすると周りが見えなくなるんだもの」
 いいのか悪いのか、紙一重よねぇ……とフレイはため息をつく。
「そう言うことだから、厨房に行って、何かつまめる物をもらってきてくれる? この調子じゃ、下手をすれば夕食が遅くなるもの」
 食べさせないという状況にはならないようにしたいのだ、とフレイは付け加えた。
「わかった……あぁ、あの二人も来たがっているが、いいか?」
 キラの側にいたいのだ、と言っていた……とオルガが問いかけてくる。その許可をもらいに来たのだ、とも。
「おとなしくしているならいいわよ。ゲームは絶対音を漏らさないって言うなら、キラの邪魔にならないはずだし……読書や昼寝は言わずもがなだもの」
 それに、自分一人じゃない方が気が楽だし……とフレイは微笑む。
「現状で何かあるとは思わないけど……でも、警戒だけはしておきたいわ」
 あれがいるから……という言葉の意味をオルガは的確に受け止めてくれたらしい。
「二人に釘を刺してから連れてくる」
 こう頷いて見せた。