「……いったい、何が目的なのかしらね……」 タリアは思わずこう呟いてしまう。 「先ほど捕縛された連中の解放、でしょうか」 こう言ってきたのはアーサーだ。 「どうなのかしらね」 おそらくそうだろう、とは思う。 しかし、それならばミネルバではなく彼等が連れて行かれた格納庫の方へ向かった方がいいのではないか。 ここには、彼等と引き替えにできるような存在は……とタリアが心の中で呟いたときである。彼女の視界に《キラ》の姿が飛び込んできた。 「……そうだったわね……」 ここには、捕虜達と引き替えにしても守らなければならない存在がいたのだ。 と言うことは、連中がその事実に気づいていた、と言うことか。 「侮れないわね」 自分たちの、ほんのわずかなフォーメーションの違いでそれを察したのであれば……とタリアは心の中ではき出す。 本当に、キラの存在がなければどうなっていたことか。 逆に言えば、彼女の存在が敵に奪われるようなことになれば、この場にいる者達がどれだけ混乱を来すかわからない。 「ともかく……できるだけ早く、捕縛させないといけないでしょうね」 これ以上の混乱は必要ない……とタリアははき出す。 「わかっています」 しかし、どうすればいいのか……とアーサーは困惑したように口にする。 普段は気にならない、彼のこんな態度に自分が腹を立てている……と言うことは、自分に余裕がなくなりつつある、と言うことだろう。それではまずいだろうな、とタリアはため息をつく。 その時だ。 ブリッジに入室許可を求める声が端末から響いてくる。 「艦長!」 それに一言二言応対していたメイリンがタリアに呼びかけてきた。 「シンと、バルトフェルド隊のフラガさんですが……どうしますか?」 入室を許可するのか、それとも入り口で待機をさせるのか。彼女はその判断を求めているらしい。 シンはともかく、フラガは地球軍時代からのたたき上げの存在だ。はっきり言って、その経験は自分よりも豊富だと言っていい。そして、キラが彼を信頼していると言うこともあちらこちらから聞いている。 「今、ドアのロックを外すわ。入ってもらって」 相手がナチュラルだろうと何だろうとかまわない。今必要なのは有益な助言をしてくれる存在だ。 そう判断をして、タリアは指示を出す。同時に、艦長席の端末からドアのロックを捜査した。 「キラさん!」 「おぉ、無事だな」 そうすれば、ドアの前にいたらしい二人がもつれるようにしてブリッジに転がり込んでくる。 「あぁ……ドアは大至急ロックしてくれますかね。一応、まだ下だとは思うが、いつやってくるかわからない」 さりげなくフラガが口にした言葉に、タリアは頷き返す。このさりげなさも、やはり経験を重ねてきているからだろう。 タリアが行動するのを見て、フラガはキラへと歩み寄っていく。 「……とはいうものの、やっぱ無理をしたな、お前」 そして、キラの顔をのぞき込むとこう言ってくる。 「フラガさん……」 「まぁ、あれで今は無駄な戦いが避けられたのは事実だがな。お腹の中の子のためにも、少し控えろって」 でないと、自分が後でイザークとエザリアにいじめられるのだ、とフラガは苦笑混じりに付け加えた。 「イザークはそんなことはしませんよ……お義母さまはわからないけど」 「それが恐いんだろうが……」 二人の会話に、ブリッジ内に余裕が生まれ始める。その事実に、タリアはそっと安堵のため息をついた。 「……しかし、ミネルバに侵入者とは……」 アークエンジェルに戻ったバルトフェルドが渋面を作りながらこう口にする。 「ちょっと! 何やってんのよ、あいつら!!」 信じられない! とフレイが口を挟んできた。 「混乱していたからな……アークエンジェルだって、侵入しようと考えれば不可能ではない」 特に、戦闘が終結した直後は、安堵で気が抜けるものだ……とバルトフェルドは説明をする。 「それはわかっているけど……でも!」 「大丈夫ヨ。フラガが行ったから」 あの男が信用できるのは、フレイもよく知っているだろう、とアイシャが問いかけた。 「そうよね。キラさんに何かあったら、私だけではなくもっと恐い人の怒りを買いそうですものね」 あの方の怒りを買ったら、居場所がなくなるだろう……というマリューの言葉にバルトフェルドも同意をするしかない。 「……というのは冗談でも、あの男なら何とかするでショ」 あんなセリフを口癖にしているのだし……とアイシャが笑う。 「その間に、キラさんの髪の一筋にでも傷を付けたら、しばらく部屋から追い出しますわ」 「あぁ、それが一番効きそうね」 何かとんでもないセリフを耳にしたような気がするのは錯覚だろうか。そう言いたくなる。 「ともかく……我々は地球軍が戻ってこないかどうかを警戒していた方がいいだろうね……それと、あの三人が暴走しないように、と」 とバルトフェルドが口にした瞬間だ。 ノイマンをはじめとしたブリッジクルーがさりげなく視線を泳がせている。 「どうかしたのかね?」 こう問いかけても、誰も口を開かない。 「……ひょっとして、もう遅かったのかね?」 既に何かをやらかしたのだろうか、とバルトフェルドは問いかけた。 「取りあえず、ナタルが説得していますが……」 「……キラちゃんだものネ、あの三人の《絶対》は」 「キラが止めればやめるとは思うんですけど」 無理でしょう……と女性陣三人はあっさりと口にする。それに誰も何も言い返せなかった。 |