「……すぐにミネルバに、ですか?」
 シンはデュランダル直々に告げられた言葉に思わずこう聞き返してしまう。
『そうだ。フラガ氏も一緒にね』
 キラをミネルバからアークエンジェルへと連れ帰ってもらわなければいけないだろう、と彼は微笑む。しかし、シンにはそれだけではないのではないかと思う。
 おそらく、何かあったのかだ。しかし、それを公表してはまた混乱が生じる、と判断したのだろう。
「わかりました」
 それにあの男の力が必要だ、というのであれば仕方がない。
 タリア達もそう考えるはずだ。
「では、そのようにさせて頂きます」
 言葉とともにシンは隣にいるストライクへと視線を向ける。あれもまた地球軍が開発した機体ではあるが、今は嫌悪感もない。
 自分の中で何かが変わったことは事実だ。
 その原因もわかっている。
 でも、理由がわからない。
 しかし、今はそれを考えている場合ではないだろう、とも思うのだ。
「そう言うことですから、付き合ってもらう」
 ともかく、命令を優先しなければいけない。そう判断をして、フラガに声をかける。
『わかってるって。俺としても、キラを安心させてやりたいしな』
 軽い口調でこう言い返しながらも、何かを感じ取っているらしいとフラガの表情が告げていた。
「じゃ、俺が先に行くから……」
『あぁ、ちゃんと付いていくから、案内を頼むな』
 迷子になるような年じゃないしな……と笑いとともに返してくる。
 確かに、戦闘中のあの動きを見ていれば何も心配はいらないだろう。
 なら、さっさと戻るか……とシンはインパルスを飛び立たせる。その後をストライクも追いかけてきた。
 二機はまっすぐにミネルバへと向かう。
 そんな彼等の代わりは、どうやらフェイス二人が引き受けてくれるらしい。なら大丈夫だな……とシンは考えなくてもいいことを考えていた。

 暗がりでこっそりと息を潜めながら、アウルは誰かが来るのを待っていた。
 できれば、一人で動いている人間がいい。
 複数を相手にすることもできるが、万が一のことを考えれば不安は少しでも減らしたいと思うのだ。
「……早く、来いよ……」
 そして、さっさと自分の目的のために役立ってくれ。
 アウルはナイフを握り直すと口の中でこう呟いた。

「……艦長? もう一度おっしゃってくださいませんか?」
 レイは信じられないというようにこう聞き返す。
『だから、アマルフィ副官からの連絡があったの。艦内に敵が侵入している可能性があると』
 ついでに、アスラン・ザラがさっき強引に乗り込んできてくれたわ……と彼女はため息をつく。
『さっきのグフですか?』
『そうよ』
 ルナマリアの問いかけに、タリアが頷いて見せている。
「いつの間に……」
 それ以上に、自分たちが何も気づかなかった……と言うことの方がレイには衝撃だった。
『単身で乗り込んだらしいのよ……さすがに生身の人間を個別に感知できるシステムは開発されていないわ』
 仮に開発されても、実用的だとは思わない。その言葉はもっともなものだ。
「わかりました。では、俺たちも艦内の捜索に戻ります」
 その方が確実だろう、とレイは判断をした。
『いえ。艦内には戻って欲しいけど、捜索には加わらずにそのままブリッジに来てちょうだい』
 そちらの方が先決だ、とタリアが言ってくる。
『艦長?』
『キラさんの護衛をお願い。アーサーではあてにならないから』
 その言葉の裏に、アスランに言いくるめられそうで……という意味が含まれていると感じたのは間違いないだろう。
「わかりました」
 それに関してはルナマリアも同じだ。
 ならば、自分が側にいるのが一番確実だろうと判断をする。
「直接、ブリッジにあがります」
 レイがこう言えば、
『機体はそのままでいいわ。インパルスとストライクが着艦する予定だから』
 とタリアがこう言い返してきた。
『艦長?』
 普段はきっちりと規則を守る彼女の言葉にしては何かおかしい。いや、焦っていると言うべきか。
『そちらから直接あがってきてもらった方が早いでしょう?』
 しかし、タリアは本心を口にする代わりにこう言ってくる。
「……アスラン・ザラが、何かやらかしているわけだ」
 デッキで足止めをしているのだろうが、それでは間に合わないのか……とレイは呟く。
「ルナ。艦内のどこに敵が潜んでいるのかわからないんだ。艦長のご命令に従った方がいい」
 自分たちよりも早く、敵がブリッジに侵入しては意味がないだろう、とレイは彼女に声をかけた。
『そう言われてみれば、そうね。キラさんの身柄を守ることの方が先決か』
 ブリッジのメンバーは今ひとつ信用できないから……と彼女は苦笑混じりにこう言い返してくる。その中に彼女の妹の存在があることは否定できないだろう。
「そうだな」
 同意をしながらレイはシートベルトを外す。そして、そのままハッチを開いた。
 何気なく視線を向ければ、ルナマリアも同じようにハッチから身を乗り出しているのが見える。
「……フラガさんも来てくださるなら大丈夫だろうが……」
 それでも、それまでの間、あの男を阻止しなければいけないだろう。不本意だが、あの二人の名前を使ってでもだ。
「……貴方の存在はあの人にとって有害なんだよ」
 アスラン・ザラ……とレイは呟いた。