ミネルバに帰還しよう、とシンがインパルスの向きを変えたときだ。
「ガイア?」
 海上に見覚えがある機体を見つける。しかもだ。それは今にも沈みそうになっている。
「……何をやっているんだ、あれは」
 そもそも、ガイアは泳げないのではないのか。それなのに……と思う。
「どう、するかな」
 放っておいても、沈むだけだから死ぬことはない。もっとも、空気がなくなる前に救助されれば、の話だ。
 だが、地球軍のあの様子ではあれのパイロットを回収しにはこれないだろう。となると、ザフトが回収することになるのではないか。
「……俺がこのまま放っておけば、二度手間か」
 あるいは、もう動いているのかもしれないが……とは思う。だが、それでもこの様子ではかなりの人数を救助しなければいけないのではないか。
「……仕方がないな」
 あの機体は元々自分たちのものだし……とシンは小さくため息をつく。そして、そのままインパルスをそれに近づけていった。
「メイリン!」
 そのまま、ミネルバに向けて通信を入れる。
『何、シン?』
「拾った捕虜って、どこに運ぶんだ? ガイアもセットだけど」
 取りあえず現状を報告した瞬間だ。回線の向こうで彼女が息をのんだのがわかった。そのままタリアに向かって何か報告をしている。
「メイリン?」
 自分は何かおかしいことをしただろうか。その声を聞きながら、シンは本気で悩む。
「ひょっとして、これ、ここに捨てていった方がいいのか?」
 ぼそりとこう呟いたときだ。
『ちゃんと拾ってきなさい』
 どうやら、メイリンから回線を取り上げたらしいタリアの声が耳に届く。
「艦長?」
『そうね……そのまま基地の方に運んで。他の機体もあちらに運ばれることになっているわ』
 ミネルバにはキラがいる以上、少しでも危険を減らしたいのだ、と彼女は続ける。
「わかりました」
 シンにしてもキラを危険にさらしたくない。
 もちろん、彼女の中にいる新しい命、もだ。
 その命が、戦いのない世界に生まれてきて欲しい、と考えるのは自分だけではないのではないか。シンはそう思う。
 だから、たとえ《敵》だったとしても、今は命を見捨てるようなことはしたくない。そんなことをすれば、キラが悲しむことはわかっていたのだ。
「……って、何でここでキラさんが……」
 理由として出てくるのか。
 その答えを見つけられないまま、シンはガイアを基地の格納庫へと運んでいった。

 同じように、フラガはウィンダムを格納庫へと運んでいた。
「……ガイアにカオスにか……これでアビスがあれば、全部そろうのか?」
 並べられている機体を見て、フラガはこう呟く。そして、その周囲をザフトの軍人達が囲んでいた。
「MSがないって言うことは……キラはよっぽど信頼されているんだな」
 それとも、自分があてにされているのか。
「まぁ、あの坊主もいるようだしな」
 ストライクだけでは不安だろうが、インパルスも一緒であれば大丈夫だろうと判断されたのか。
 もっとも、どうやら自爆もできないらしいから、連中にできることは本当にわずかなことだけなのだろうが。
 それでも、油断ができない……と思ってしまうのは、自分が心配性なのだろうか。それとも、相手が相手だからなのか。フラガ自身にもわからない。
「まぁ、ここならキラには被害が及ばないよな」
 ここからミネルバまで移動することは不可能に近い。
「問題はあれか」
 アスランか……とフラガはため息をつく。
 あちらは立場上、自由に動けるから問題なのだ。もっとも、ミネルバ側が阻止してくれるだろう、とは思いたい。
「……虎さんも動いてくれるだろうしな」
 少なくとも、彼であればアスランもそうそう文句等を言えないはずだ。
 だから、そちらは任せても大丈夫だろう。フラガはそう判断をする。それよりも、自分には優先しなければならないことがあるしな、と心の中で呟く。
「……さて……恨み言の一つや二つは覚悟しなければならないんだろうが……」
 あまり表沙汰にできない内容だよな、とこっそりとはき出す。
 自分たちの関係が、ではない。
 目の前の相手も含めた連中の誕生の仕方が問題なのだ。
「それに関しては、議長閣下がちゃんと考えてくれるか」
 知られても大丈夫だと思う相手だけで尋問してくれるだろう。
「……どちらにしても、こいつを機体から引きずり出さなければいけないわけだがな」
 それが一番難しいかもしれない。今この時点で、自決している可能性だってあるのだ。
「そういや、開けてみるまで確率は半々って言うのがあったな。訳がわからなくて嫌いだったんだが」
 物理の法則だったか定理だよな……とフラガは無理矢理意識を明るい方へと向ける。そのまま、彼は兵士達が作っている輪の中にウィンダムごとストライクを着地させた。

 どうやら、ネオだけではなく他の二人も既に捕らえられているらしい。
 そんな彼等を解放するにはどうすればいいのか。
 ザフトの連中に見つからない位置に漂いながら、アウルはそう考える。
「あれと交換なら、連中はみんなを返してくれるかな?」
 地球軍に戻る戻らないにしても、どうせなら一緒にいたい。そう思うのだ。
「そのくらいなら、いいよな」
 わがままを言っても……と彼は付け加える。
 しかし、その声は誰の耳にも届かなかった。