「ネオ!」 何をする気なのか、とスティングが叫ぶ。 『他の二人を連れて下がれ』 そんな彼の耳にネオのこんなセリフが届く。 「ネオ! 俺たちを見捨てるのかよ!」 自分たちは、彼が彼だからこそ今まで付いてきたのだ。 彼だけが、自分たち三人を対等な存在と考えてくれていたように思う。だから、命令されているとかなんかということではなく、従ってきたのだ。 それなのに、どうしていきなり放り出すのか。 スティングはそう問いかける。 『お前らまで、俺に付き合うことはない。大人は……責任を取らなければならないんだよ』 スティング達には死んで欲しくないのだ……と彼は続けた。 「そんなの、しらねぇよ!」 ネオでなければいやなのだ、とスティングは叫ぶ。 他の二人だって同じに決まっている、とも。 「ネオ!」 何とか言えよ! とスティングはさらに言葉を重ねた。 『お前がそんな風でどうするんだ。アウルやステラを頼めるのは……お前だけなんだぞ』 そんなの知るか、と心の中ではき出す。 「ネオがいてくれたからだろうが!」 だから、責任というなら、自分たちのことも最後まで責任を取れよ! それが大人というものではないのか、とスティングは思う。 「俺たちは、あんたになら地獄の底まで付き合う覚悟があるんだ!」 たとえどんなところだって、あそこに比べたらマシに決まっている。スティングはそう思う。 同時に、ふっと懐かしい顔が脳裏に浮かんだ。 あの三人も、同じように地獄にいた。そして、自分たちよりも先に世界に放り出されたはず。その時《絶対者》がものすごく嫌な奴だ、と感じた覚えがある。 だが、彼等は今、幸せだと言っていいのではないだろうか。 自分たちで選択した者達と一緒にいられる。そして、彼等もまたあの三人を《人間》として扱っているのだ。 そんな彼等がうらやましくない、と言えば嘘になるだろう。 だからこそ、自分が誰に従うかぐらいは選択させてくれてもいいだろう、と思うのだ。 『ネオ!』 『ステラも、いっしょにいく……』 他の二人も同じ気持ちだったらしい。通信機のスピーカーから懇願するような声が響いてくる。 だが、それに対するネオの答えは返ってこない。 「……なら、俺たちも勝手にするさ」 最後ぐらい、好きにさせろ……とスティングは呟く。 どうしても自分たちを止めたいというのであれば、彼にはその手段があるのだ。それを使わないなら、勝手にしていいと言うことだろう、とスティングは判断をする。 そのまま、彼はネオの機体を追いかけるためにカオスを移動させた。 『フラガさん!』 スピーカーからキラの悲鳴のような叫びが響いてくる。 その理由はわかっていた。 「心配するなって」 フラガは軽い口調でこう言い返す。 「俺にも見えているからな」 それに、武器は使えないはず。ならば、最後の手段は一つしかないだろう。 キラのことだ。連中の武装を停止させるために組んだプログラムにそれを防止するものも組み込んで言えるはずだ。 それがなくても、こいつはそれから自分を守ってくれるのではないか……とフラガは考えている。そう信頼するだけの時間を、この機体とともに自分は過ごしてきたのだ。 「……あれは……あいつか?」 近づいてくる機体を見て、ふっとそんなことを考える。 「なら……狙いは一つしかないってことか」 自分に対する恨みを晴らそうというのだろう。 しかし、二重の意味でそれをさせるわけにはいかない。 「お前が、俺を恨む理由は想像できているが……だからといって、はい、そうですか……と受け入れるわけにはいかないんだよ」 自分には生きたい理由があるのだ、とフラガは心の中ではき出す。 「ついでに、お前にも死なれると困るしな」 だから、と思いながら、アグニを構える。そして、慎重に照準をロックした。 「落とすから、よろしく!」 回収をな、とアークエンジェルに向けて通信を送る。そして、その答えが返ってくるよりも前に引き金を引いた。 ビームは狙いを外すことなく推進装置だけを破壊する。 落下していくそれを、バルトフェルド隊の連中が追いかけていくのが見えた。 しかし、フラガの方はその後どうなったのかを確認する余裕はない。 「カオスだったか?」 まっすぐにこちらに向かってくる機体の名前は……とフラガは呟く。 「って事は、三人のうちの誰かだってことか?」 おそらく、自分たちにとって、大切な存在を撃墜されたからだろう。その怒りを自分に向けてきているのだ、と言うことはフラガにもわかった。 それだからこそ、相手を殺したくはない……とも思う。 だが、この角度からではパイロットを殺さずに機体を止めることはできないだろう。そうも思うのだ。 本当に厄介だな……とフラガは心の中で呟く。 しかし、相手の機体はストライクに到達する直前で動きが止まった。そして、そのままゆっくりと降下していく。 『お義父さん! それも確保してください。後の二機も!』 その答えはすぐにわかった。 「本当にお前さんは……」 おとなしく守られてはくれないんだな……とフラガは苦笑を浮かべる。 「でもまぁ……俺としては守ってやらなければならない存在だ、と思っているのだがね」 苦笑とともに、フラガはゆっくりとストライクをミネルバへと近づけていった。 |