隣の艦が白煙を上げて沈んでいく。 『何?』 ルナマリアが信じられないと言うように呟いている声が耳に届いた。 「海中からの攻撃だろうな……」 そんな彼女に答えるかのようにレイは言葉を口にする。 「あちらにはアビスもいる」 それを言うなら、こちらにはグーンをはじめとした機体が海中で動いているはず。 だが、それよりも相手の方が強いと言うことか。 あの三人と同じように強化された存在であれば、そうであったとしてもおかしくはないか……とレイは思う。ナチュラルでもフラガのような存在もあることだし、と。 『大丈夫かしら……』 ザクで海中戦は難しいし……と言うルナマリアの言葉ももっともなものだ。だが、やってやれないことはないだろう、とも思う。後でエイブスに怒られるとしても、だ。 それに、おそらくミネルバは攻撃を受けないのではないか。 そんな風にレイは考えていた。 「……奴らは、キラさんが欲しいのだからな……」 そして、おそらく、彼女がどこにいるのか見当を付けているはず。だから、ミネルバとアークエンジェルには決定的な攻撃が加えられていないのだ。 それを逆手に取れないだろうか。 もっとも、今の自分はここを離れるわけにはいかない。 それもきちんとわかっている。 『レイ!』 「わかっている!」 撃破はしないまでも、足を止めようと思っているのだろう。こうして攻撃を加えてくるのだ。そして、そんな連中から艦を――キラを守らなければいけない。 自分がもし、インパルスを与えられていたら……とそんな考えが一瞬だけ心の中をよぎる。 しかし、すぐにその考えを振り捨てた。 シンがこんな風に防御に回るような人間ではないことをよく知っている。たとえ命令されたとしても、間違いなく飛び出していっただろう。 「……だから、今のポジションの方がいい……」 こうして、間近でキラを守れるのだから。 自分にそう言い聞かせながら、レイはウィンダムを撃墜した。 その瞬間だ。 レイの精神に何かが触れてくる。 しかし、それはクルーゼやフラガと違い嫌悪感しか感じられない。 「……あいつか……」 とうとう出てきたのか……とレイは眉を寄せる。 「絶対、キラさんをお前達には渡さない!」 そして、こう呟いた。 「主砲だけを、ねらえるか?」 シホはこう呟きながら照準をロックしようとする。だが、四方八方から襲いかかってくる敵に、それを果たすことができない。 せめて、三十秒でいい。 機体を静止できる時間があれば……と思ったときだ。 目の前の機体が次々と撃墜されている。 『何をしている、ハーネンフース』 このような場所で聞くとは思わなかった――いや、聞きたくなかった、と言った方が正しいかもしれない――声が耳に届いた。 『船体ごと、撃破してしまえばいいだろう』 だが、相手は気にすることなくこう続けてくる。 「……あの艦に核が搭載されている可能性があります!」 もちろん、そうではないという可能性もある。だが、あのタイプの艦には核ミサイルを搭載することができるというデーターがあるのだ。 もし、核が搭載されていた場合、この周囲は被爆してしまう。 キラは今ミネルバにいるから大丈夫だろうが、この地の住人達はどうだろうか。デュランダルだけではなくラクスもいるのだ。彼等の安全も、自分たちが守らなければならないものだ。そう考えれば、うかつなことはできない。 『……それなら、仕方がありませんね』 アスランの行動を制止しようとするかのようにニコルが口を挟んでくる。その事実が、シホを安堵させてくれた。 彼が一緒であれば、間違いなくアスランを止めてくれるだろう。 『そう言うことなら、主砲を撃つ前に何とかしろ!』 不本意だが、雑魚は引き受けてやる! とアスランは口にする。 その言葉を本当に信用していいのだろうか。 だが、現状では信じないわけにはいかない。 悩んでいる間に主砲を撃たれては意味がないのだ。 そう判断をして、シホは今度こそ敵の主砲へと照準をロックする。 アスランとニコルのおかげで、今度はそれを邪魔する者達はいない。 「……今だ!」 ある一点に照準がロックされたと同時に、シホは引き金を引いた。 地上でどのような事態が起きているのか、ここではわからない。 「本当は、側にいてやりたいのだがな……」 アスランが地上に降りたのであれば、なおさら……とイザークは呟く。 「イザーク……頼むから、お前まで勝手な行動を取らないでくれよ」 そんな彼の呟きを耳にしたのだろう。ディアッカが即座にこう言ってきた。 「わかっている!」 現状で、自分まで地球に降りるわけにはいかない。いつ、地球軍があれを完成させるかわからないのだ。 そうなる前に、あれを破壊しなければならない。 そのための作戦も、ほぼできあがっている。後は、それを実行に移すだけだ。 だが、そのためにはデュランダルの許可がいる。 彼から許可ができれば、即座に実行に移すことになる。その指揮を執らなければならないイザークがこの場を離れるわけにはいかないのだ。 「……アスランに関しては、戻ってきたら一発ぐらい殴ればいいって」 クルーゼからの許可はもらってあるし、ニコルも仲間に引き込める目算が付いている。だから、それで我慢しておけ……とディアッカは笑う。 「そうだな」 イザークは小さく頷いてみせる。 「それにさ。さっさと終わらせて、大手を振ってキラの所に行った方がいいだろう?」 その方が彼女も喜ぶ、と言われれば否定できない。 「お前らの子供が生まれるのを心待ちにしているのは、俺だって同じ事だからな」 その時には付き合ってやるよ……という親友の言葉に、イザークは微笑みを浮かべた。 |