あまりにさりげない動きだったので、今まで気が付かなかった。
 だが、あの三機やストライクの動きから判断すれば、ミネルバに目標がいるのではないか。ネオはそう判断をする。
「と言っても……アークエンジェルという可能性も、まだ捨てきれないがな」
 同時に、あの三機はアークエンジェルも守っているからだ。そう考えれば、かなりの判断能力だと言っていい。
 あれらもまた、同じように強化された存在であったはず。
 しかも、あの三人よりも前にロールアウトしているバージョンだ。あの三人よりも厄介な副作用がある、と言われていた。
 だが、どう見ても今の彼等にそのようなものがあるとは考えられない。
「……あちらで何かされたな……」
 それがよいことなのか悪いことなのか、わからないがな……とネオは口元に微苦笑を刻む。
「こうなれば、さっさと頭を潰すに限るな。どうなっている?」
 あちらへの攻撃は……とネオは艦長に問いかける。
「避難は完了しましたので、いつでも可能です」
「そうか」
 ならさっさと片づけるか……とネオは笑う。そうすれば、ザフトの連中にも混乱が生じるだろうしな」
 そうなれば、自分たちの方が有利だ……と付け加えれば、周囲の者達の顔つきが変わる。それは士気にも影響してくるはずだ。
「あぁ、アウル達にはアークエンジェルとミネルバ以外は好きにしていいと言っておけ。どうやら、目標はそのうちのどちらかにいるはずだからな」
 いい加減、連中もじれているはずだし……告げれば、即座に指示が伝達される。
 後は、主砲が目標を破壊すればいいだけだな、と心の中で呟いたときだ。
「敵MS接近!」
 不意にこんなセリフが耳に届く。
「撃破させろ!」
 艦長が指示を出している。それに、各艦とも迎撃体制に入った。そして、ダガーもウィンダムも相手を近寄らせまいとしている。
 しかし、相手の方がどう見ても格が上だ。連中では太刀打ちができないな……とネオは判断をする。
「……俺も出るか……」
 その方が後々やりやすいか……とも思う。
 しかし、指揮官自らが出撃していい物か。こうも考えるのだ。
「大佐。お出になりたいのでしたらどうぞ」
 そんな彼の耳に、艦長のこんなセリフが届く。
「その方が全体をごらんになれるのではありませんか?」
 物わかりが良すぎるのも問題だな……とネオは思う。だが、ありがたいと思うのも事実だ。
「では、言葉に甘えよう」
 こう言い残すと、彼はきびすを返す。そのまま、デッキへと向けて歩き出した。

 モニターの端で地球軍の巨大MAが飛散していく。
「あの坊主か」
 やるな……とフラガは呟いた。
「もっとも、そうでなきゃあんな機体を与えられないんだろうが」
 問題は精神面だよな……と思う。
 実際に顔を合わせたのは一度きりだ。それでも、彼が何かを悩んでいたことはわかった。
 その最たるものは、キラとの関係らしいが。
 どうやら、彼女はまた盛大に魅力を振りまいていたらしいな、と思う。しかも、わざとではなく無意識だから余計にたちが悪いのか。
 だが、と心の中で付け加える。
 キラにひかれるような連中は、良くも悪くも有能な人材だと言っていい。それでなければ、逆に彼女から逃げ出すか、でなければ遠巻きに眺めているだけだ。
 もっとも、それも最初のうちだけだろう。
 最終的には多くのものがキラの人間性を認めることになるのだが。ただし、それはひかれるのとは違うのではないか、と思っている。
「どちらにしても、キラの害にならなきゃかまわんがな」
 キラを『好きだ』と言いながら、その精神を追いつめるしかできない奴なんてもってのほかだ……と思う。そんな人間が一人でも厄介なのに、二人になれば手に負えない……と言うことだ。
「まぁ……あれはどうしようもないとしても、あっちの坊主はこれからの周囲の教育次第だろうな」
 前提が違うしな……と呟きながら、また別の機体をたたき落とす。
「悪いな……お前さん達に恨みはないんだが……」
 それでも、ここが戦場で、自分たちが敵対している陣営に属している以上仕方がないことだ。
 個人個人に恨みはなくても仕方がない。
 逆に言えば、組織から離れれば個人に対しては何の感情も抱いていない。もちろん、その他の関係で個人的に感情を抱く可能性はあるだろう。それはあくまでも自分個人としてのものだ。
 その違いを彼が理解してくれれば、きっと、精神的に成長してくれるのだろうな、と思う。
「まぁ、あの三人も変わったしな」
 そういうオコサマ達の成長を見ているのは楽しいからな……と何気なく呟いた次の瞬間、フラガは思いきり顔をしかめる。
「何だか、ものすごくオヤジになった気がするぞ、俺は」
 こんなセリフを呟いたときだ。
 何かが、フラガの精神に触れた。
 その感覚をフラガは今までに何度か経験している。それは主に二人の人間に対して、だ。そして、その二人は元々同一の人間だったと言っていい。
 そんな存在が彼等だけではない、とわかったのは先日のことだ。
「……あいつが出てきた……って事か」
 だとするならば、狙いは何なのだろうか。
 自分か、それともレイか。
 キラ達の話だと指揮官クラスの人間ではないか、と思われるから、MS隊を指揮するためだ、という可能性も否定はできない。
 どちらにしても、厄介な状況だ……というのは間違いない。
「さて……虎さんにご報告かね」
 判断する立場にはないし……と呟きながら、回線を開く。
『どうしたノ?』
 あきれたような口調で応答してきたのはアイシャだ。
「あれが出てきたんだが、どうする? 俺が相手をしていいのか?」
 虎さんに聞いてくれ……といいながら、フラガはストライクを移動させる。次の瞬間、脇をかすめるようにビームが空を切り裂く。
「……って、どうやら、返事を待っている時間はなさそうだな」
 特徴的な色の機体……と言うことは、あれがそうなのだろう。でなければ、あの地球軍がパーソナルカラーなんて認めてくれるはずがないのだ。
『そのようネ……気を付けなさいヨ』
 皆を悲しませるようなことになったら、ただじゃすまないから……という言葉にフラガは苦笑を返す。
「せいぜい気を付けよう」
 それでも、こう言い返した。