「ここ、いいですか?」
 レイはキラ達に向かってこう問いかける。
「えぇ。かまわないわよ」
 フレイが即座にこう言い返してくれた。どうやら『ラウの関係者』というのが、彼女にとってプラスに働いてくれているらしい。
 その事実をありがたい、と思いながら、レイはキラの斜め前の席へと腰を下ろした。そして、その隣にシンも座を占める。しかし、その彼の態度は今ひとつほめられたものではない。
「シン……」
 言外にそれを滲ませながら、レイは彼の名を呼ぶ。だが、予想どおりシンは何も口にしようとはしない。
「……すみません」
 ため息と共にレイはキラに向かって頭を下げた。
「いえ。気になさらないでください」
 警戒されて当然だろう……と彼女は微笑む。その表情は、まるで全てを見通しているかのようだ、とレイは思う。
 いや、実際にそうなのかもしれない、と心の中で呟く。クルーゼ達に聞いた彼女の行動が真実である以上、現状を全て認識しているのではないだろうか。
「それよりも、私たちに遠慮をなさらないでくださいね」
 食事をするならどうぞ、と彼女は付け加える。パイロットであれば、栄養補給もまた義務だろうから……と。
「では、遠慮なく」
 レイがこう言って、カップに口を付けようとした瞬間だ。
「……偉そうに……」
 ぼそっとシンがこう口にする。
「何よ」
 即座にフレイが眉をしかめた。
「実戦のことなんか知らないくせに、偉そうに言うなよ!」
 知っていても、単に戦場にいただけだろう! とシンは叫び返す。何も知らないとはいえ、よくもまぁ、こうも暴言を吐けるものだ、とレイは一瞬感心してしまう。
「……シン!」
 しかし、すぐに彼を諫めようと口を開いた。
「何も知らないって幸せよね」
 だが、それよりも早くフレイがこういう。
「なんだよ!」
「言っておくけどね! キラはその気になればフリーダムだって操縦できるのよ!」
 きっぱりとこう告げたフレイの言葉に、ルナマリアが目を丸くした。しかし、シンには意味がわからないらしい。
「なんだよ、それ!」
 そんな機体知らない、と彼はあざ笑う。
「バカ!」
 そんな彼に、ルナマリアが逆にあきれたような口調で説明を始めた。
「フリーダムとジャスティス。前の大戦で、終戦に導いた機体よ。あんただって、見ているでしょう? ディセンベルのザフト基地にあるあの二機よ」
 ここまで言われて、ようやくシンは思い出したらしい。かすかに驚きをその瞳に浮かべている。
「ついでに言えば、あれのOSを作ったのも、キラよ」
「……フレイ……」
 さらに何かを口にしようとする彼女を、キラがそっと制止した。
「別段、自慢することでも何でもないから」
「でも」
「いいんだよ、フレイ。フレイやお義父さん達……それに、イザーク達がわかってくれていれば、それだけで」
 ね、と彼女は柔らかく微笑む。
 そんなキラを、シンは信じられないというような表情で見つめている。
 これが後でとんでもない結果を引き起こさなければいいのだが……とレイは心の中で呟く。
 だが、それはある意味予感だったのかもしれない。もっとも、このときにはまだわからなかった。

「不本意だけど、仕方がないわね」
 エイブスの話を聞いたタリアが小さなため息と共にこう告げる。
「でも、わかっているでしょうが、キラさんは無理が利く体ではないのよ?」
「もちろんです。ただ、アドバイスをいただければ……と」
 大気圏内での戦闘はともかく、地上にはプラントとは違って様々な気象条件があるのだ。それに適応させるにはどうすればいいのか、その経験が自分たちには少ない。
 しかし、キラはバルトフェルド隊と共に過ごした経験がある。
 同時に彼女は現在ザフトで使われているMSのOSの基本を作った存在なのだ。
 自分たちにとっても有益なアドバイスをくれるのではないか。そう考えたとしても仕方がないだろう、と思う。
「わかったわ。ご本人に話してみるわ」
 彼から相談するよりも自分からの方がいいだろう。タリアはそう判断した。
「キラさん一人ではないかもしれない、と言うこともいいわよね?」
 おそらく、協力してもらえたとしてもそのそばにはフレイがいるのではないか。彼女の体調を鑑みれば、それが当然だろうと思う。
「そちらに関しても、理解しています。バルトフェルド隊長の養女であれば、誰も文句は言わないと思います」
 いや、自分が言わせない……とエイブスは付け加える。
 あるいは、彼もフレイが《ナチュラル》である事を知っているかもしれない。
「そうしてちょうだい」
 だからといって、彼女を排斥するのは自分たちの利益にはならないのだ。タリアはそう考えている。
「でも、あまりあてにしないでね」
 キラの体型等から判断して、彼女は妊娠初期なのではないかとタリアは考えていた。その時期、どのような状態なのか、経験上知っている。だから、無理はさせられないとも思うのだ。
「それも、わかっているつもりですが……」
 だが、諦めきれないという態度を作るのは、彼が《男》だからだろうか。
「大切なのは、キラさんと、そのお腹の中にいる子供を守ることでしょう」
 そのためには、慎重なくらいに気を遣った方がいいのだ……とタリアは彼に告げる。でなければ、子供なんて簡単に命を失いかねないのだ、とも。
「ただでさえ、今の状況が妊婦にいいとは言い切れないのよ」
 安静とはほど遠い環境なのだから……とタリアはため息をついてしまう。
「ストレスは厳禁なの」
 それだけはわかって……と告げる。
「……気を付けます……」
 本当に納得してくれたのだろうか。一抹の不安を感じながら、タリアは立ち上がった。
「頼むわよ」
 そして、彼の肩を叩く。
「あくまでも、彼女は保護される存在なのだから、ね」
「わかっています」
 こちらにはしっかりとした言葉が返ってくる。その事実に、タリアは少しだけ安堵した。